[官能小説レビュー]

苦しくないと生きている気がしない女――『恋地獄』に見た強烈な自己愛

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『恋地獄』/メディアファクトリー

■今回の官能小説
『恋地獄』(花房観音、メディアファクトリー)

 人は、世間の価値観に沿い、対外的に“恋”をする。無意識のうちに、世間の決めた“いい男”の条件に見合った男性を選別してターゲットを絞り、相手が定まると、何となく恋をしているような気分になる。女友達にそれを打ち明けて応援され、結婚というゴールに向かって、自分を焚き付けるように恋をし、ゴールテープを切る。友人や社内や家族――周りから祝福されれば、「私の恋は実った」と感じるものだ。

 けれど人を愛することは、そんなフワフワとした感情ではないのかもしれない。恋とは言い換えれば「他人の心を奪う行為」であり、それは苦く切なく、つらい感情であるはず。そんなことを思わせたのが、花房観音著『恋地獄』(メディアファクトリー)だ。

 『恋地獄』の主人公は、京都に住む女流作家・鷹村。古来より「あの世とこの世の分かれ道」といわれている六道の辻に住む鷹村は、かつて恋人だった一ノ瀬を思いながら、小さな枯井戸のある京都の一軒家に独り暮らしている。

 東京から出張でやってきた星野は、彼女に「墓守娘」の怪談実話を執筆しないかと打診。身寄りのない者の墓を守る「墓守娘」であり、また霊が見えることを稼業にしている老婆・志乃に話を聞くことで、鷹村自身も一ノ瀬の残像を追うようになる。
 
 代々墓守の家に産まれた志乃は、墓を水で清め、花を手向け、線香をあげ、死人の声に耳を澄ませる。志乃は、亡き恋人・勝介の亡霊である首と共に暮らしている。処女を捧げたが、結婚することが叶わず、彼女の住む家の近くにある鳥居で首を吊った男だ。亡くなった恋人が、“見える”女・志乃に、“見えない”女・鷹村は心を寄せていく。
 
 鷹村が愛した男・一ノ瀬は、二十年近く売れない映画監督だった。24歳の頃に初の商業作品『セックスという病』が絶賛され、彼の唯一無二の代表作となった。京都に住んでいた一ノ瀬は上京し、本腰を入れて映画の世界へ入る。が、東京に来てからの彼の作品はどれも酷評され、映画界からは忘れられてしまう。その鬱屈から。一ノ瀬は女に、セックスに溺れるようになった。

 ある時、鷹村と一ノ瀬は、彼が幼少時代を過ごした京都を訪れる。愛する彼が数えきれないほどの女と性行為を行ったその土地に、鷹村は傷つき、再び一ノ瀬への深い愛情を認識する。しかし無情にも、一ノ瀬はその後、電車のホームから落ちて亡くなってしまう。そして一ノ瀬が亡き後も、彼の残骸を拾い集めるように、彼の故郷である京都に移り住み、見えない彼の背中を追いながら、あの世とこの世の分かれ道で暮らし続けているのだ。

 亡くなった人を悪く言う者はほとんどいない。たとえ生前に浮気されたとしても、「死」という禊を掲げると、浮気は「大勢に愛された人」と偽善的に変換される。だからこそ、鷹村のように愛した男に急死されてしまった女は、その男の残像から逃れることができないのかもしれない。

 さらにそんな鷹村からは、相手を永遠に思い続けることで、自分自身を愛し慈しんでいる様子が垣間見える。つらい恋に身を投じて苦しむことで、鷹村は自分が生きていることを、実感しているような気がするのだ。

 自らの首を絞めるように、1人の男を深く愛することは、愚かだともいえるが、筆者はそんな女を幸せ者だと思う。冒頭でも述べたように、大抵の女は対外的な恋しか知らないが、人と人とがつながり、交わることは決して綺麗ごとだけではない。表層の天国しか知らない者は、地獄の苦しみの先にある強烈な愛を知らずに死んでしまうのだ。なんだかそれは、ひどくもったいないことに思えてならない。

 人の醜さや弱さを直視し、受け入れることによって、自分にどんな未知の感情が芽生えるのかを知りたい。たとえそれが“自己愛でしかない”と言われようと、恋をするなら、天国だけでなく地獄の底まで体験したい。『恋地獄』はそんな強烈さをはらんでいる。
(いしいのりえ)

難儀な生き方してる女の方が面白いよね

しぃちゃん



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