『わたしは妊婦』『憧れの女の子』ブックビュー

妊娠を機に明るみになる、「わかり合えない」という夫婦の現実

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『わたしは妊婦』(大森兄弟、河出書房新社)、『憧れの女の子』(朝比奈あすか、双葉社)

 妊娠について語るのは、難しい。「円満な夫婦間の妊娠」でくくっても、そこには人それぞれの事情があって、「妊婦=幸せ者」とは限らない。多くの女性はホルモンバランスの乱れで、ハイになったり鬱になったりする中で、体調管理や仕事の引き継ぎをしながら、分娩方法や産院選びなど、想像以上に多くの選択をせかされる。周りから「大変だけど、幸せなんだよね」というイメージを悪気なく押し付けられても、愚痴を言う相手は慎重に選ばないといけない。妊娠を機に、夫や家族、友人との人間関係が崩れることもある。

 甘いイメージにくるまれた“おめでた”ではなく、極めて現実的な「妊娠」と「夫婦関係」を描いた小説が『わたしは妊婦』(大森兄弟、河出書房新社)と、『憧れの女の子』(朝比奈あすか、双葉社)の2作だ。

 女性誌から飛び出たような恵まれた妊婦生活を送る同級生を横目に、何となく頼りない老医者や、妊婦に過剰に夢を託す夫に囲まれ、自分の不安定さに振り回される「私」が語り手となる『わたしは妊婦』。既に2人の息子を育てながら「次は女の子が欲しい」と産み分け産院に通う妻を、愛しく思いつつも、その熱意にうっすらと引き、若い女性部下に惹かれだす夫の視点で描かれる『憧れの女の子』。どちらも、「平凡で円満な夫婦の間に、1つの新しい命が授けられる」というところから始まりつつ、妊娠を機に、夫婦関係が変わっていく瞬間をすくい取っている。

 夫婦共に望んでいた妊娠は、基本的にはうれしい“お祝いごと”だ。それでも、喜びと同時に、経済的な制約や妻の不安定な体調・精神状態が、現実的で生臭い問題を夫婦の前に連れてくる。

 初産の痛みを執拗に想像する妻を前に、「痛いのはごめんだ」「妊婦さんなんだから暗い話はやめよう」と返し、早くも2人目の子どもを夢見る夫(『わたしは妊婦』)。少しでも確実に女の子を産むために、“無駄打ち”になるセックスを嫌がり、産み分けについて仕事中にも電話をかけてくる妻(『憧れの女の子』)。どちらにも、妊娠の明るい一面を見たい男と、現実的に逃げようがないゆえに、夫に「ここから逃げんな」と迫ってしまう女の食い違いが、ユーモラスに浮かび上がる。

 登場人物たちは、恋愛真っただ中の勢いで結婚したわけではない。それなりの理性と愛情を持って「この人となら一生を共にできる」と選んだパートナーだ。それでも、自分や妻の妊娠をきっかけに、今までスルーできていた、小さな違和感と否応なく向き合うことになり、結果的に、自分の知らなかった一面も引きずり出されていく。

 言動の端々に、親心を超えたエゴが透けて見える妻に引いていた『憧れの女の子』の主人公は、ある小さな波乱がもとで、自分にも“親のエゴ”があると、はっきりと悟る。一方、“理想の夫”ぶりたがる夫にどうしてもムカついてしまう『わたしは妊婦』の主人公は、世間が無責任に押し付けてくる妊婦像は虚像だとわかっていても、そんな“理想の妊婦”になれない現実に、なにより自分自身がストレスを感じていることを自覚する。どちらも、パートナーの受け入れ難い一面は、そのまま自分自身の認めたくない部分に、細く細くつながっているのだ。

 どちらの作品でも、相手の受け入れられない面は、やっぱり完全には受け入れられない。相手への違和感は、簡単には拭えない。登場人物たちは、それを自覚しつつも、夫婦関係を続けることを選ぶ。その選択は、「別れたいけど子どももいるし……」といった消極的選択の結果だったり、妥協やあきらめなのかもしれない。最終的にそれが正しいのか、本人にも読者にもわからない。けれども、「相手を受け入れられない」こと自体をのみ込むように相手と向き合う時、他人からはわからない、生まれてくる子どもすら入る余地のない、お互いの間にだけ流れる濃い時間が生まれていく。

“2人だけの時間”という言葉の甘さからは程遠い、重くてどろっとした瞬間。それは、万人に美味しいものでなくても、その2人にしか味わえないものだ。完璧でない妻と完璧でない夫だからこそ生まれる、無数のすれ違いや違和感。何度も向き合って、のみ込んでいく瞬間を重ねることで、ひと癖もふた癖もある酒のような夫婦関係が少しずつ形づくられていくのだろう。
(保田夏子)



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