小学生にはエロすぎた…「愛ゆえのセックスは正当だ」と少女に教え込んだマンガ/種村有菜『神風怪盗ジャンヌ』

ラブコメ作品を中心にヒットを飛ばしまくっていた90年代の集英社『りぼん』。“魔法”や“変身”や“悪との闘い”が登場するSF系、戦闘系の作品は、全体から見ると比較的少数派だったものの、池野恋の『ときめきトゥナイト』(1982~1994年)、水沢めぐみの『姫ちゃんのリボン』(1990~1994年)『赤ずきんチャチャ』(1992~2000年)などの長編ヒット作もあり、アニメ化される傾向にあった(未就学~低学年の女児は、魔法と変身が大好き♡)。

 今回紹介するのは、種村有菜の『神風怪盗ジャンヌ』(1998~2000年)。昼は女子高生の日下部まろんが、夜ごと怪盗ジャンヌに変身して悪と対決していく……という物語である。実は、この作品が連載開始した当時、既に小学校高学年になっていた私は「(低学年向けの)闘いモノがはじまったんだ~。絵があんまり『りぼん』って感じじゃないな~」くらいにしか思っていなかった。ところが、……これが……エロかった!!!!!

 セックスという言葉は出てこないし、処女=純潔を守る、性行為=純潔を奪われる、など回りくどい表現に置き換えられているものの(今読むとそれが逆にエロかったりするけど)、それでも『りぼん』がよくOKしたよな……と驚くくらい、きわどい性描写やセリフがたびたび登場する。何というか……二次元的なエロさというか……私はその道に明るくないけれど、同人誌的なエロの空気がそこにある(そして種村有菜は、『ジャンヌ』のアダルト同人誌も出している)。制服のデザインはコスプレ系で凝っていて可愛らしいのだけど(秋葉原のカフェスタッフさんみたい)、ボディラインが際立つ(おっぱいは大きく、ウエストは極端に細く)。種村有菜は目が大きくてラインがくっきりの女児向けアニメ系のキラキラした絵柄が特徴的だが、頬を赤らめて目を潤ませる女性キャラの表情は、はっきり言って、エロい。子供ながらに「なんかよくわかんないけど、これってエロい」とドキドキさせられたことを覚えている。

 エロについては一旦置いておいて、『ジャンヌ』のヒロイン・まろんとヒーロー・稚空(ちあき)が、とことん理想と願望を具現化したような人物造形であること、そんなヒロインとヒーローの織りなす恋愛模様も極限まで理想と願望を追求した完璧なものだったことについて、まず触れていきたい。ちょっと恥ずかしくて読み進めるのが無理なほどのクサいセリフが、ありすぎるのだ。チャラくてモテモテでボンボンの謎の隣人である稚空が、まろんの“健気さ”に心を揺さぶられ、超一途に愛を注ぎ、決め台詞を吐きまくる……毎号ときめき、骨抜きにされた読者は多かったのではないか。

◎明るく強いモテモテ美少女、だけど繊細で泣き虫という「全盛り」ヒロイン

 ヒロインは、16歳の女子高生、日下部まろん(くさかべ・まろん)。両親がそれぞれ海外で仕事をしているため、広いマンションで一人暮らしをしているが、ある日ちいさな“天使”の女の子・フィンがやって来て、「まろんはジャンヌ・ダルクの生まれ変わり。神様のために悪魔を回収して」と要請されたことから、毎夜“神風怪盗ジャンヌ”に変身しては美しい絵画を狙って街に繰り出している。この“悪魔”というのは美しい絵画に潜み、絵の持ち主を悪い人間に変貌させてしまう。その悪魔を回収して封印、そして神の力を取り戻す「チェックメイト!」を果たすことがジャンヌの目的だ。

 もう少し詳しく解説すると、まずこの世には、大昔から世界征服を企んでいる「魔王」がいる。魔王は人間界の美しい絵に悪魔を憑依させ、絵を見て「美しい」と感じた人間の心を蝕む。人間の美しい心は「神様の命の源」。もし魔王が人間の美しい心を蝕み続けると、いずれ神様は死に、人類は滅び、世界に誰もいなくなる。だから悪魔を回収しないとヤバい……というわけだが、それができるのはジャンヌ・ダルクの生まれ変わりで神の力を受け継いでいるまろんただ一人。歴史上の人物を引っ張り出してヒロインの前世にするなんて、驚いた。しかもまろん、ジャンヌ・ダルクよりさらにもっと昔は旧約聖書に登場するイヴだったというのだから、作品の設定、大胆過ぎる……。

 平成の世を生きる16歳女子児童の肩に人類の未来がかかっているなんて、戦中の学徒出陣並みに重苦しい任務だと思うが、怪盗ジャンヌに変身したまろんは次々と襲い掛かる困難をかわしながら、悪魔を回収、チェックメイトを果たしていく。その姿は勇敢で、颯爽としていて、気高くもあり、とにかくめちゃくちゃかっこいい。ちなみにジャンヌの衣装は、かの『美少女戦士セーラームーン』のようなブリブリ系ではなく、和装とアラビアンナイトをミックスさせたような感じ(ミニスカだけど)で、ジャンヌの芯の強さやストイックさが強調されている。

 まろんは女子高生としても、ものすごくイケている。美人で成績優秀で委員長、得意の新体操を披露すればめちゃくちゃ華麗で、観客はみんなメロメロになる。ちなみに稚空がまろんを高く抱き上げて「まろんは軽いな 羽根が生えてるみたいだ」と言うシーンもあるのだが、胸などは柔らかくて「抱き心地がいい」そうなのでスタイルもめちゃくちゃ良いらしい。女子から嫉妬されることもなく(到底かなわないから)憧れの的として崇められ、男子からはモテまくり。性格も高飛車な振る舞いなんてせず、明るくて公明正大で優しくて利他的。まさにキラキラ女子さん。しかしそれは学校にいる時の表向きのまろんである。また、ジャンヌに変身しているときのまろんも、強くてカッコよくて美しくて警官さえ虜にする魅力的な女性。でも“本当のまろん”は、弱くて壊れそうに脆くて繊細で……とくるから、だからヒロインとして「完璧」なのである。

 というのも、実はまろん、親の愛に飢えていることが原因で、メンヘラ&アダルトチルドレンが進行しつつある。まろんが10歳の頃、不仲だった両親は仕事を理由にそれぞれ海外赴任し、まろんのことはマンション隣室に住む幼なじみ家族に任せっきり、生活費は振り込んでも連絡はしてこない。幼なじみ家族に見守られながらも1人暮らししているまろんの心は、もう孤独、孤独、孤独でいっぱい。前回の『グッドモーニング・コール』(http://mess-y.com/archives/42366)では、中学生男女が親元離れての2人暮らしを十二分に楽しんでいたが、まろんは自らの家庭環境を憂え、両親を恋しがって連絡を心待ちにしている。拒否されるのが怖過ぎて、自分からの連絡はできない。一般的に高校生なんて「親、うぜぇ」シーズンだが、まろんときたら両親恋しさに幼子のように頼りなく、眉をハの字にして少し垂れ目の大きな瞳をうるうる……この描写がまたとてつもなく可憐で、それはそれは……「守ってあげたくなる女の子」!!!

 美しくて、かっこよくて、頼りない。3つの魅力を絶妙なバランスで搭載されたまろんは少女漫画のヒロイン像としてまさに完璧だ。これ、なかなかすごいことである。才色兼備で周囲に憧れられる要素を山ほど持っていながら、実は孤独で、弱い面もあり、それを知ったヒーローが「絶対に俺が守る!」とお姫様抱っこ。見事な全盛りじゃないか。どれだけ美少女でもメンヘラが過ぎると「重い女」「悲劇のヒロイン」「キモい」なんてレッテルを貼られるものだが、まろんの場合、弱さを露見させる時以外はジャンヌとして活躍したり新体操で優勝したり、とにかく「美しくてかっこいい、華のある人物」であることが徹底して描かれており、読者の多くはまろんにドン引きすることなく、むしろまろんを「理想的なヒロイン」と捉え、憧れを募らせたのではないだろうか。

 不遇な家庭環境、弱さや淋しさも含めて、まろんというキャラクターは、ごくごくフツーの家庭で安穏と過ごす女児にとっては「羨ましさ」でしかない。作中まろんが親に葛藤を抱けば抱くほど、孤独を募らせれば募らせるほど、稚空は「ヒロインを寵愛する献身的な王子様」へと成長していく。『神風怪盗ジャンヌ』は、悲劇のヒロインになって王子様に守られたいというメンヘラちっくな願望を募らせる、罪深い作品でもある。

◎ヒロインの反応こそが「エロい」

 そろそろエロ描写の話をしよう。天真爛漫に見えて深い孤独を抱えたまろんの心の殻をぶち破ってくれるかっこいい王子様、転校生の名古屋稚空(なごや・ちあき)。彼もまた、16歳でありながらまろんの隣室(2LDK以上あるはず……)にて1人暮らしをはじめるのだが、実父が大病院の院長で、妻(=稚空の実母)を亡くしてから後妻をとっかえひっかえしていることに嫌気がさして家出をした少年だ。見た目はもちろん、クラス中の女子が群がるほどカッコイイ。

 稚空はジャンヌと同じように悪魔の回収を行っている怪盗シンドバッドの正体で、当初はジャンヌの悪魔の回収を阻む“ライバル”“邪魔者”的な面もあったのだが、かといって正真正銘の“敵”というわけでもなく、むしろここぞという時にはジャンヌを助けてもくれる。それは昼間、“まろん”と“稚空”でいる時も同様で、稚空はまろんの抱える孤独にすぐさま気づき、頑張り過ぎるまろんに助け船を出すこともしばしば。まろんは愛ってよくわからないし、シンドバッドは敵なはずだし、と稚空をすぐには信じることができなかったが、互いの事情や内面に触れたり、助け合ったりするうちに2人は惹かれ合っていく。その接近に伴って『ジャンヌ』紙面では、2人のラブ&エロ描写が幾度となく登場することになる。

 エロ兆候は物語スタート時から表出しており、着替え途中だったまろんがうっかり上半身下着姿(谷間あり)のままベランダに出て稚空と会話したり(第1話)、まろんが同級生の水無月大和に壁ドンされて強引にキスされそうになり(第2話)、シンドバッドの稚空がジャンヌのまろんに強引にキスしてどうやら舌が入ってるだろうと思わせる描写(第4話)など、毎回ちょいちょいエロい。まろんはいわゆる“襲われ役”で、心臓病を患う中学生・高土屋全(たかづちや・ぜん)が臨終間際に不意打ちキスするとか(第16話)、悪魔騎士のノインがまろんを押し倒しギシギシ鳴るソファでレイプ未遂(第17~第18話)なんて描写もある。全体的に「男子が女子(まろん)を強引に……」が多い。ただそれだけならエロだと断言もできないが、何がエロいって、<まろんの反応がエロい>のである。

 稚空に心惹かれているまろんは、強引に抱きすくめられたりキスされたり胸を触られたりすると「やんやんっ」しながらも受け入れる。だって稚空がそういうことをするのは、まろんのことが好きすぎて・まろんが可愛すぎて、我慢できなくなってしまうから。彼の強引さや欲望の源は“性欲”とか“支配欲”とか“征服欲”で・は・な・く・て、「まろんのことが可愛くて好きでたまらないから、まろんに触りたくてたまらなくなっちゃう!!!」という言い訳が毎回絶対に用意されている。愛情の表出としての性描写なのだ。というかそれなら、前述の全くんやノインや水無月くんもそうで、全員「まろん大好き」だから彼女と密着したがっている。

 もちろんそんなの『ジャンヌ』に限ったことではなく、女児向けマンガならもっと過激なエロ描写のある雑誌でも同様だけれど、「愛しているからセックスしたい」という理屈がどの作品にも通底している。そうした作品群に触れて育つ女性たちが、「強引さは愛情の裏返し(好きな女児にちょっかい出す男児、の延長みたいな感じで)」「これが男と女がいちゃつく時の理想(あるいは模範)」と捉えてしまうことはあるだろうし、そういう潜在意識を持ったまま性知識を持って恋愛してセックスして結婚する女性も少なくないように思う。実際にはセックスには愛由来以外のバリエーションも様々あるのだが、「セックス=愛しているから」という解釈のみ採択してしまうと、「浮気許すまじ」思考に偏るだろうことも考えられる。そりゃあ女児向けのマンガで「愛由来ではないセックス」なんて絶対に描けないだろうけれど……。

 こんなことを書きつつ、アラサーの私は『ジャンヌ』を読み返してキュンとなっていた。第19話では、遊園地の観覧車内でまろんのキスマーク(ノインによるもの)を見てカッとなった稚空がまろんにキスを迫るも、まろんは拒否。まろんが「なんで稚空すぐキスしようとするの?」と聞けば、稚空は「お前のことかわいいと思うからしたいんだ しょうがないだろ」と答える。これは、正直、同じこと言われたいと思った。「かわいいと思うからしたい」って……絶妙過ぎる。

 第22話では、セックスはなしだけどまろんと稚空が同じベッドで目を覚まし、学校で調子を崩したまろんを稚空が抱きかかえ保健室へ運び、まろんは「いやっ」とか言いながらも、稚空の強引なキス&「誰かに優しくしてほしいときに 一番に俺を頼って」にうるうる、からの「世界中の人に嫌われてる気がしてこわいの…こわいのぉっ…」。メンヘラ放出しまくって王子様に求められるヒロインまろんに羨ましさを覚えてしまった。これだから少女マンガはやめられない。

◎セックスの肯定と「守られたい願望」の覚醒

 『ジャンヌ』以前に、矢沢あい『ご近所物語』(1995~97年)が、主人公カップルがセックスを済ませたことを明確に示す場面を描いてはいたが、『ジャンヌ』は最終話前話という超クライマックス(第29話)にそのシーンを持ってきた。初体験の場所はなんと、天界である。神様が見てる!!! まろんが「魔王」との戦い(果し合いのような形式)を控えた前夜、まろんと稚空は、天界の王宮のような豪奢なしつらえのベッドルームに二人で寝る。このとき、まろんが決戦に挑むことへの不安を吐露する稚空に、まろんは「私にはもう こわいものなんてない あるとしたらあなたに嫌われることだけ…」「すき… 稚空が…すき…すきなの…」と号泣して想いを告げ、感極まった稚空はまろんを押し倒す。上半身裸(に見える)まろんと稚空は微妙に汗ばみ、頬を紅潮させ、そして深いキス。翌朝、決戦直前のジャンヌのモノローグに「神様以外の人を愛しても 心が気高さと誇りを忘れなければ 女の子は誰しも『純潔』なままでいられるものなのね」とある。これは画期的で印象深い言葉だと思う。セックスは汚いことではないんだ、とはっきり肯定しているのだから。

 最後にもう一度、まろんと稚空の関係性が私たちに与えた影響について考えてみよう。可憐で健気な美少女だけれど、深い孤独に打ちひしがれているため、とっても重い。しかし彼女は本当は、つくられるべくしてつくられたメンヘラ。魔王はイヴの魂の生まれ変わりたる日下部まろんが、心に傷を負い脆弱な人間に育つよう仕組み、両親を操ってわざと海外放浪させていたのだ。魔王のくせに、やることが丁寧で陰湿だなあ。魔王の企みによって何年もかけて醸成されたまろんの弱い心はしかし、持ち前の強さと、彼女を守ろうと奮闘する稚空や親友によって克服される。全体的にセカイ系な世界観の広がる『ジャンヌ』だが、実はここが最大のファンタジー要素だと思う。親友は心からまろんを信じているし、稚空は決してまろんを重荷に感じたりしない。稚空は理想的な都合のよい男、いや都合のよい王子様だ。

 ヒロインがどのような状態になっても(どう転んでも可愛いのだが)、変わらぬ愛を注ぐ王子。でも恋愛って実際はそういうものではない。こういう関係性が描かれることって、女性に「守られたい願望」を植え付けてしまう(あるいは呼び覚ましてしまう)のではないか? と、そんなふうに考えてしまうのは良くないだろうか。また前述したように『ジャンヌ』における「好きだし可愛いと思うからセックスしたい」という論理展開での性描写によって、「愛されセックスとはこういうもの」「かわいいと思って“もらえれば”、押し倒して“もらえる”」と捉えてしまう可能性にも留意したい。セックスも恋愛も、そんな一面的なものではないからだ。

 前世どころか天地創造まで遡る壮大な世界観およびストーリーも、恋愛も友情も主人公の成長も、脇役である天使たちの動向も、詰め込めるだけ詰め込んだラーメン次郎的な盛りだくさんマンガ『ジャンヌ』。実に濃い少女漫画といえる。女同士の不器用な友情、家族の問題、天使たちの反乱、堕天使の裏切り、アダムとイヴ、ジャンヌ・ダルク、人類滅亡の危機などなど。「魔王」の正体が、神様の「さみしい心」が実体化したものだったという設定、最終話はジャンヌとの対決を経て、魔王に善が芽生える(悪者にも救いを与える、『りぼん』らしい終わり方だ)という徹底した性善説が貫かれている。だからこそ多少のエロ描写はあれども、夢と希望を与える少女マンガ誌「りぼん」で何度も巻頭カラーを飾る人気連載たりえたのだろう。ありとあらゆる少女の憧れ要素を濃縮還元して散りばめた、実に少女マンガらしい一作といえる。

■ 中崎亜衣
1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

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