ストリップに着想を得た『ボレロ』。現代バレエの名作を観て考える「芸術とわいせつの境はどこにあるのか」

 劇場へ足を運んだ観客と出演者だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 高尚で夢々しい、ととらえられがちなバレエも、そのひとつ。情熱的なパフォーマンスの中には、過激な性描写や社会風刺があふれています。2月25日、日本のトップバレエダンサーである上野水香主演で上演された『東京バレエ団ウィンター・ガラ』の『ボレロ』のモチーフはストリップショー。世間でたびたび話題になる「芸術かわいせつか」のボーダーを考えるには、格好の題材かもしれません。

『ボレロ』は、モーリス・ラベル作曲の「ボレロ」に、20世紀最高の振付家モーリス・ベジャールが振り付けた現代バレエ作品の最高傑作です。モーリス・ベジャール・バレエ団が許可したダンサー以外は踊ることはできず、上野は『ボレロ』を踊ることを認められた唯一の日本人女性です。

 1961年にベルギーで初演された『ボレロ』は、酒場を思わせる赤い円卓の上で踊るひとりの女性ダンサー“メロディー”と、そのテーブルの周囲を取り囲む男性たちの群舞“リズム”が、ラベルの力強い旋律に合わせ官能的なダンスを展開。1980年代には男性ダンサーが“メロディー”、“リズム”を女性ダンサーたちが演じ、性別を超越したエロティックさを世間に披露しました。

 ローザンヌ国際バレエの入賞からモナコ留学を経て東京バレエ団に入団した上野は、2004年の入団直後からベジャールに『ボレロ』を踊ることを許され、2007年に亡くなった彼から直接の指導も受けた経験の持ち主です。

「ボレロ」が小さく流れるなか、一筋の照明が、まず“メロディー”の右腕のみを照らします。左腕、両腕と少しずつスポットが変化し、遠めには上半身裸のようにも見える“メロディー”が登場。繰り返される旋律に合わせ正確さが要求される振り付けは肉体的にとても厳しいもので、“メロディー”は髪を振り乱し、跳躍するたびに汗が飛び散ります。

◎バレエは芸術で、ストリップはわいせつ?

 計算された照明と円卓の赤色だけが鮮烈なシンプルなセットは、踊り手によって作品全体の印象が変わるといわれており、美の女神とその媚態に惑わされる男たちの欲望の物語とも、娼婦と群がる客とも、見知らぬ異教の儀式とも受け取れます。

 手足の長さが際立つ抜群の柔軟性と女性らしい優美さに定評のある上野が演じた“メロディー”から感じたものは、無邪気さと神々しさでした。酒場で踊り始めた少女に周囲の男たちが惹きつけられるけれど、その視線をはねつけて自分の道を生きていく強さにひれ伏していくような。彼女を目の前にして恋をしないひとがいるのだろうかーーそう感じたときに頭をよぎったのが、“メロディー”はダンサー自身の本質を反映しているのだろうということです。踊っている最中の神々しさとはあまりにもギャップのある、カーテンコールでの笑顔のチャーミングさに、そう確信できました。

 上野は出演したテレビ番組で「もともとの『ボレロ』のイメージはストリップだった」と明かしています。三方を異性――演出によっては同性――に囲まれ、一段高い場所でその視線を受けながら踊るという構図は、確かにストリップショーに近いといえそうですが、作品の中の“メロディー”は常に崇高な存在です。

 以前に一度、ストリップショーを観たことがあります。すぐ目の前で一糸まとわぬ姿になっているのに、感じたのはエロさよりも、アスリートのような鍛えられた肉体性と高い物語性への驚きでした。

 特に印象に残っているのは、小指の赤い糸を信じる恋に憧れる少女のショー。踊り手自身が自分の魅力や特性を深く理解していて、脱ぎ捨てる前の衣装でなく全裸になって初めて完成するように計算された“ヘアメイク”と作り込まれた世界観に、淡い色合いの絵本でも眺めたような気持ちになったものでした。そして、跳躍とともに、飛び散る汗。

 ひとつのパフォーマンスで、セリフに頼らずとも雄弁な世界へ呼び込んでくれて、ひとの情熱と本能をかきたてて、同じように汗を飛び散らせて。そう羅列すれば、芸術の代名詞であるバレエと、わいせつとみなされるであろうストリップとの違いは何なのでしょうか。もしあるとすれば、チケット代と観客席との距離くらいしか思いつきません。

 『東京バレエ団ウィンター・ガラ』では、同じベジャール振り付けの『中国の不思議な役人』も併演されました。ベラ・バルトークの曲に、同名のパントマイムを下敷きにして1992年に初演された作品です。

 無頼漢の一行が、“娘”を使って道行く男を美人局にかけ金品を強奪。獲物にしようとした“中国の不思議な役人”は、無頼漢が何度殺しても生き返って“娘”に迫るというストーリーで、パントマイムはあまりに煽情的だと何度も上演禁止になっています。

◎バレエにおける「射精」の表現

 黒いレースの下着姿に黒ヒールと娼婦のような恰好の“娘”を演じるのは男性ダンサーで、鍛えられた筋肉とあいまって倒錯的なエロティックさ。美人局の犠牲者たちとの踊りも、騎乗位でのセックスを彷彿とさせるものや相手の男性が下からしがみついたまま“娘”が四つん這いに移動するなど、男性同士だからこそ露悪的になりすぎず身体的にも可能な振り付けです。

 役人は娘が脱ぎ捨てた金髪のウィッグへ腰を押しつけ、欲望を果たします。腰を震わせて頭を思い切り振りあげ、後ろへ向かって一気に汗が飛び散るさまが“正常位”以外のなにものでもない――というところまで、ベジャールは確信犯に振り付けているのでしょう。現代バレエにおいては、100年以上前に初演された『牧神の午後』でもあからさまに射精を示唆する振り付けを盛り込んでおり、情熱と生きる本能は、どんな表現の分野でも不可分であるといえます。

 日本ではバレエは、エンターテインメントのひとつとしての鑑賞よりも、女の子向けの習い事、という認識が強いのが現実です。ふわふわのレースのチュチュは確かに愛らしいし、華麗な古典バレエは文句なく魅力的。でも、暗くて退廃的、かつ官能的な美しさも、またバレエの大きな側面なのです。

■フィナンシェ西沢
新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

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