「spoon.」斉藤まことが見る2015年の女性カルチャー

『オーファン・ブラック』とリンクして考えた、大森靖子――擬態としての“スマートビッチ”

女子カルチャーがにわかに活気を帯びてきた昨今。2015年に注目したい女性アーティストについて、ガールズカルチャー誌「spoon.」の編集・発行人を務め、90年代前半にはカルチャー誌「H」の編集長として時代を見つめ続けてきた斉藤まこと氏が分析した。

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『洗脳』/avex trax

 1997年のメレディス・ブルックスのヒット曲「ビッチ」。「自分はときに売女で恋人で子供で、ときに母親にもなり聖女になる。局面ごとに変わる自分を恥じてはいない」という、女性の多様性の肯定が歌われるリフが印象だったこの曲は、昨年から日本でも見られるようになった遺伝子操作をテーマにした海外ドラマ『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』の重要なシーンで使われて、ものすごく新しい意味を持って聞こえた。

 『オーファン・ブラック』は、パンクファッション好きで孤児だと思っていた前科者・サラが、自分が実はある企業の作ったクローン人間で、顔も体形もそっくりなのに、育った環境によって自分とはまったく違うキャラクターになっている“もう1人の自分”に次々に出会っていくという、すごく刺激的な連続ドラマだ。このドラマの中で、サラが3番目に出会うクローンがアリソン。文字通りビッチなサラに対し、昔のアメリカのホームドラマのママを完コピしたような保守的であるアリソンは、自分がクローン人間だった事実を知ってだんだんと壊れていき、その過程でママ友の旦那とヤってしてしまう(しかもファミリーカーの車内で!)。しかし彼女はそのことを悔やんだりしない。むしろ一線を越えて、自分が解放できたうれしさで、不倫帰りにひとり車を運転しながら、実に気持ち良さそうに上記の「ビッチ」のリフを歌う(しかもリフ終わりの、「私の魅力を変えることはできない」にちゃんとコブシまでつけて!)。

 このドラマはクローンが主人公でひとりの女優が何役もの自分を演じるという特性もあって、このシーンでアリスンが歌う「ビッチ」は分裂症の自分へのエールのようにみえる。実際、タブーを越えてコメディエンヌ的にハジけたアリスンは、その後、このドラマの中で主役のサラを食う怪演ぶりでどんどん存在感を増していく(シーズン2の公式サイトでは番手も上がりアリスンは2番手扱いに)。

「アリスン(および『オーファン・ブラック』)って大森靖子なんじゃね?」

と大森靖子のメジャーデビューアルバム『洗脳』をヘビロテしつつ強く思う。リスカ癖のある男の娘が「このまま死んじゃうのは嫌」と歌う「イミテーションガール」、先生と恋愛関係になった女子高生が「こういうのがしたくてせんせいになったって女子のなかで噂だよ」と挑発する「子供じゃないもん17」、二股をかけられた女が「最後の手紙は赤く染めるわ」と藤圭子のように歌う「呪いは水色」と、このアルバムは全曲、大森靖子の脳内で生み出された「今の時代を生きるさまざまな年代の女」を主人公にしている。そして、全曲聴くとようやく大森靖子本人が言うところの「統合性」が見えてくるという時代性と作家性がシンクロした傑作なのだ。

アタチにもいろんな顔があるのよ~

しぃちゃん

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