仁科友里「女のための有名人深読み週報」

東山紀之、ジャニー氏性加害問題めぐる「後輩に待ってもらった」発言の危うさとは?

2023/05/25 21:00
仁科友里(ライター)

東山紀之は、報道番組のプロデューサーより力を持っているのか?

 しかし、私には、これがテレビの独立性や中立性がいかに危ういかの証左のように思えてならなかった。報道番組にタレントを起用することは、芸能事務所によるテレビの私物化につながるのではないか。

 まず、これはジャニーズ事務所に限ったことではないが、タレントをキャスターに起用した場合、その番組が所属事務所の不祥事を放送することは非常に難しくなるだろう。その結果、番組内で、事務所のネガティブな話題はアンタッチャブルとなり、そうした姿勢を取ることで、“報道”としての信頼度も落ちるし、事務所が悪い意味で権力化してしまうようにも思う。さらに言うと、タレントもその気になれば、権力を振りかざせるという状況を生み出しかねない。

 今回の問題は、性加害というデリケートな問題なので、現所属タレントたちがコメントしづらいことは確かだ。東山の「後輩に待ってもらった」という発言は、自分が先陣を切ることで後輩を守りたい一心であったことは理解できる。

 しかし、誰が何をどんなふうに話すのかについて、指示する権利や責任を持つのは番組のプロデューサーやディレクターのはず。もし本当に他番組にレギュラー出演している「後輩に待ってもらった」のなら、番組の制作者よりも、ジャニーズ事務所の先輩のほうが「力を持っている」ことにならないか。

 繰り返すが、もちろん、東山にそんな意図はないと理解している。しかし、報道番組がタレントを起用することは、番組が“事務所びいき”となるだけでなく、先輩後輩関係を理由に、他番組のタレントの発言すらも操れるという危険性も出てきてしまう。報道番組に独立性、中立性が不可欠なことを考えると、これは非常に問題だと思うのだ。

 そもそも、なぜいちタレントが所属事務所創業者の不祥事についてコメントを出さねばならないのか、私には不思議でならない。今回の件を一般的な企業に置き換えて考えてみると、カリスマとして崇められていた会社の創業者が、生前、悪行を働いていたことが明らかになり、同社の従業員が謝罪を行ったということであり、それはあまりに不自然だろう。この場合、コメントすべきは現社長であって従業員ではない。矢面に立たされ、あれこれ言われるタレントが気の毒な気がしてしまう。

 視聴率が重要視されるテレビ、特に民放各局は、できるだけ人気タレントに出演してもらいたいだろう。なので、人気者を抱える事務所を怒らせたくないと忖度してしまうことは、容易に想像できる。しかし、報道など、その論理を持ち込んではいけない分野もあるはずだ。今回の件を機に、テレビは「芸能事務所と線を引く方法」を考えなければいけない。このようなことが今後も続くとしたら、視聴者のテレビ離れはますます進んでいくように思えてならない。

仁科友里(ライター)

仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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Twitter:@_nishinayuri

最終更新:2023/05/25 21:00
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