仁科友里「女のための有名人深読み週報」

藤本美貴、人気の「ミキティ人生相談」のハズレ回――“働く一般女性”に対する想像力の欠如

2023/04/27 21:00
仁科友里(ライター)

藤本美貴、子どもの体調不良で当日欠勤する会社員を「その人は仕事も頑張れない人」

 しかし、タレントとして向かうところ敵なしに思える藤本にも、苦手な話題というものがあるようだ。藤本のYouTubeチャンネル「ハロー!ミキティ」の人気企画「ミキティ人生相談」に、こんなメールが寄せられた。

 26歳の女性が、子どもの体調不良、本人の体調不良を理由に、急に当日欠勤することが多い先輩の存在にモヤモヤしているという。突然休めば、その人の仕事を周囲がフォローすることになるが、「ありがとうございます」「申し訳ありません」などの一言があるわけでもないとのこと。

 藤本は「私は、その先輩はね、放っておいたらいいと思うんですよ」と回答。「というのも、相談者さんも思ってるように、周りも絶対に思っているはずだから、早く自分が仕事を頑張って、その人を抜き去っていけばいいと思う」と、例によって“他人を気にせず、己の道を行け”とアドバイスした。「だって、その人は周りの信用もないし、仕事も頑張れない人だし、ただ入った年数が先の先輩っていうだけであって、全然余裕で抜けるってこともあり得ると思う」と、相談者には仕事に集中することを勧めていたが、正直、私は違和感を覚えた。これは会社員経験のない藤本には難しい相談だったのかもしれない。

 芸能人やプロ野球選手のような個人事業主は、自分が頑張って結果を出せば、評価されるというシンプルなルールで活動している。どちらが先輩であるかよりも、どちらが“数字”を残しているかが問われるし、結果を出せばギャラも増えるだろう。

 しかし、会社員の場合、団体で仕事を回していくことが多いので、1人が抜けると確実に誰かに負担がかかる。一生懸命フォローしても残業代がつくぐらいで、特に賃金が増えることもなく、キャリアアップになるわけでもない。こうなると、「私、なんで人のために頑張っているんだろう」とモヤモヤする人が出てくるだろうし、それは、自分が仕事に集中するだけでは解消されないだろう。

 また藤本は、お子さん、もしくは本人の体調不良を理由に、急に仕事を休む人について、「その人は信用もないし、仕事もできないし」とズバッとコメントしていた。「自分の頑張りが、自分に反映される」という仕事の仕方は、言い方を変えると「結果がすべて」なので、そういうふうに捉えるのもしょうがない部分はあるだろうが、子どもを育てながら働く、一般の会社員側に立って考える“想像力”に欠けていると感じた。藤本は本人もお子さんも丈夫だったのかもしれないけれど、人によっては、出産後に体調が戻りにくかったり、お子さんが熱を出しやすかったりで、出産前と同じような働き方ができないこともあるのではないかと思う。

 だから、周囲が我慢せよと言いたいのではない。特定の社員が会社を休みがちなため、周囲に負担がかかっていることを解決するのは、上司の仕事だと思うのだ。そうしなければ、女性間の不公平感は解消されず、「子持ちは迷惑」という空気が出来上がってしまう。そうすると、子どもがほしくても「職場に迷惑をかけるから」と産みづらくなったり、出産後に、辞めたくもないのに仕事を辞める女性が出てくるだろう。この構造を打破しないと、女性は仕事を続けられなくなってしまう。

 人気の「ミキティ人生相談」には、こんなふうに芸能人的なものの考え方でズレた回答をしてしまう“ハズレ回”もある。しかし藤本は、おそらくそんなことを気にするような人ではないだろう。今後も世の中のモヤモヤをズバズバッとぶった斬っていただきたいものである。



仁科友里(ライター)

仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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Twitter:@_nishinayuri

最終更新:2023/04/27 21:00
自分が頑張るだけじゃどうにもならないからモヤモヤすんのよ
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