『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』丸刈りでスマホ禁止の過酷さ……丁稚志願の14歳に思うこと

2023/04/11 16:31
石徹白未亜(ライター)
『ザ・ノンフィクション』丸刈りでスマホ禁止の過酷さ……丁稚志願の14歳に思うこと
Getty Imagesより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月9日の放送は「ボクらの丁稚物語 2023 前編 ~泣き虫同期の6年~」。

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 横浜市の家具製作会社「秋山木工」では、住み込みで5年間修行する丁稚奉公制度が採用されている。この間、丁稚たちは恋愛禁止、携帯電話は私用で使えず、家族への連絡は手紙だけ。朝は近所の清掃、さらに修行期間中は男性も女性も丸刈りという非常に過酷なものだ。

 ただ、秋山木工での厳しい修行を通じ、高級ブランドショップやホテルなどに納品される一点ものの超高級家具を作る技術を身につけることができ、若手職人がその技能を競う「技能五輪」においても、秋山木工は多くの入賞者を輩出している。

 2011年の作業場風景では、10人以上の丁稚が修行に勤しむ様子が映されていた。しかし丁稚のあまりに過酷な生活は脱落者も多く、22年春に至っては、丁稚はゼロ。その後、入社直前まで進んだ丁稚もいたようだが、入社当日、その新人丁稚は現れなかった。昨年秋の時点で、秋山木工にいる丁稚は内藤、加藤、山田の3人しかいない。

 秋山利輝社長(79歳)もこの状況に危機感を覚え、ものづくり大学名誉学長の赤松明氏にコンサルティングしてもらう。赤松氏からは、秋山社長の人間性や親孝行を重視した指導など、一本筋なところは好きだと前置きした上で、丁稚制度のやり方には問題があることを指摘。

 さらに赤松氏は「『秋山木工』っていう会社に対して日本の木工会社はあまりよく思っていない。要するに奇異な感じ」とも話す。これを受け、秋山社長は従来の住み込みの丁稚スタイルに、通いのスタイルも追加することを決めるも、かつて成功していた方法を変えることへの不安ものぞかせていた。

 一方、うれしい出来事もあった。千葉で暮らす14歳の中学3年生・松下が、前回秋山木工を特集した『ザ・ノンフィクション』を見て、母親経由で秋山木工に連絡を取り、10日間の丁稚体験を行い、中学卒業後は入社したいとの意志を見せているのだ。秋山社長は千葉の松下の実家を訪ね、松下の母、伯父、叔母とも話す。松下は秋山社長の著書も読んでいるという。

 残った丁稚3人の様子はというと、加藤は丁稚生活6年目ながら「辞めたい」と実家に帰ってしまっていたが、父親に諭され秋山木工に戻る。また、入社4年目の山田は技能五輪の県予選を通過する。昨年も県予選を突破したものの、生活態度に問題があると社内で待ったがかかり、全国大会出場はかなわず、2年越しの念願の出場であったはずなのだが、日誌では技術が至らないことを気にする文面が増え、結局、大会には出ないと決断。その数日後、山田は会社を辞めてしまった。

前回の秋山木工の様子はこちらから

『ザ・ノンフィクション』秋山木工は中高年を採用してみては?

 過酷な丁稚制度を敷く秋山社長は、てっきり「俺のやりたいようにやる。嫌ならついてこなくていい。俺の代で会社が終わっても構わない」という人かと思っていたが、新人が来ないことや、定着しないことに思い悩んでいるのにはびっくりした。

 先週同番組で特集した「レストラン大宮」の大宮勝雄シェフ(72歳)もそうだが、「昭和的スパルタスタイル」を曲げたくないのであれば、若者でなく、昭和的なシゴキの洗礼を大なり小なり受けている昭和の人、中高年を雇えばいいのでは。

 中高年を一から指導するのは気を遣うし、面倒だと思う人や組織が大半だろう。しかし、高齢社会日本で「若い子」は取り合いなのだ。冗談抜きで中高年の丁稚はダメなのだろうか。

『ザ・ノンフィクション』この世界に飛び込む14歳も

 一方、この過酷な秋山木工に飛び込まんとする14歳もいる。自らこの世界に飛び込もうとする中学3年の松下は、14歳とは思えぬ行動力だ。秋山社長もバイタリティある若き丁稚候補を前にとてもうれしそうだった。過去の秋山木工シリーズを見て、「つらそう」ではなく「ここに入社したい」と思う人がいるのだから、人の感じ方はさまざまである。

 とはいえ、松下はまだ14歳。社会に数多くある“ほかの選択肢”を知らないのではないか。入りたくて入ったはずの業界を、疲れ果てて去る若者も少なくないだけに、周囲の大人が松下の決断を手放しで肯定していいのだろうかと複雑な思いもある。

 秋山社長は松下の家を訪ねた際、将来は技能五輪で金メダルを獲ることを松下と誓い合っていた。私の不安が杞憂に終わることを願う。

 次週は続編。いよいよ2人になってしまった丁稚。そして14歳の新人は、果たして本当に秋山木工へ丁稚として入ってくるのだろうか。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2023/04/11 16:31
中高年の雇用、ありだと思う
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