『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』満身創痍の56歳ストリッパー、その“オタク”たちに思うこと

2023/02/07 13:52
石徹白未亜(ライター)
『ザ・ノンフィクション』満身創痍の56歳ストリッパー、その“オタク”たちに思うこと
写真ACより

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 星愛美、56歳。ストリッパーの中では国内最高齢と言われている。ストリップ劇場の興行は一劇場につき10日間で、愛美は大きなスーツケースと共に、全国の劇場を巡る日々を送る。愛美の熱心なファンたちは「星組」と呼ばれ、女性ファンも多い。

 愛美の「神々しい」とも言われるステージでの姿や、星組、番組スタッフ、後輩ストリッパーに対する穏やかな物腰からは想像できないが、かつて愛美は相当な非行少女で、暴走族に入り15歳までに2度の人工妊娠中絶、19歳で結婚するも死産の末、21歳で離婚。AV女優、ストリッパー、水商売と職を転々とし、45歳でストリッパーとして再出発した。信じていた人に騙され、借金を背負ったこともあったという。

 また、愛美は37歳でがんを患い子宮を摘出。その影響により自力で排尿ができないため、カテーテルを持参して巡業を行っている。さらにがんが転移したリンパ節も除去したため、内ももがリンパ浮腫でむくんでしまうという。ステージではエネルギッシュな姿を見せる愛美だが、腰や背中にも痛みを抱え、舞台裏では膝を曲げるのもままならないよう。愛美は自身の進退について考えており、「痛々しくてもう見ていられないようなステージだったら、身を引くしかない」と番組スタッフに話す。

 愛美と同じく、星組の中にも満身創痍の人がいる。大腸がんのステージ4と診断された長崎在住のスーさんだ。警察官を定年退職したスーさんは、10年前に旅先のストリップ劇場で愛美の踊りを見て、それ以来フォトブックを作るなど、熱心に愛美の「推し活」をしていたが、病状の悪化で手も荒れ、愛美の踊りに合わせ手拍子をするのもつらいという。ストリップ劇場を訪れた際も、愛美のステージ以外はロビーの椅子に座っていた。

 2022年5月、愛美のホームである大阪、晃生ショー劇場で愛美の誕生日イベントが行われる。「スーさんは体調から来られないのでは」と愛美は話していたが、劇場に現れたスーさん。終演後、愛美はスーさんを見送り、スーさんは「ほかの劇場での愛美の公演を予約しているが、行けないかもしれない」と告げる。どうやら、これがスーさんと愛美の最後の別れだったようだ。

『ザ・ノンフィクション』星組に感じた“オタク”としての共通点

 私自身は二次創作をする“オタク”なので、畑違いではあるのだが、星組の人たちにはオタクとして通ずるものを感じた。

 番組内では、女性ファンからと思われる、色とりどりの封筒に熱心な思いがつづられた愛美への多くのファンレターが映されていたが、思いをしたためられずにはいられないオタクの気持ちはとてもよくわかる。本人に手紙を出さずとも、SNSで同様のことをしているオタクは星の数ほどいる。

 また、スーさんは愛美の公演を地元の長崎から足しげく訪ねていたのだが、一方で「周年イベント」などイベントごとはあまり好きではなく、通常のストリップのステージを中心とした推し活だったそう。スーさんのオタクとしてのスタンスは、個人的に「同じだ」と思った。

『ザ・ノンフィクション』ファン交流が好きなオタクと、興味がないオタク

 オタクにも流派があり、「ファン同士の交流に積極的な人」と「ファン同士の交流に消極的な人」がいる。星組の人たちを見ていても、おそらく星組を仕切っているであろうひこにゃんは「ファン交流積極派」であり、ファンの交流が多いイベントごとはあまり好きではないスーさんは「ファン交流消極派」であると見た。

 SNSでは「〇〇ファンの人たちってほんとに最高~」とつぶやくオタクをよく見るが、こういうオタクは「ファン交流積極派」だろう。ファンである「私たち」という意識も大切にする人たちだ。一方、私は推しがいればそれでいい「ファン交流消極派」なので、スーさんがイベントに参加したくない気持ち、わかる! とスーさんに伝えたいほどだった。

 ただこの「ファン交流積極派」「ファン交流消極派」は白黒はっきり分かれるものではない。私も積極的な交流は気疲れしてしまうので遠慮したいが、同担のオタクと温かな触れ合いがあれば当然うれしいし、オタクのつぶやきを見ること自体は大好きだ。何より、これはどっちがいいとか悪いというものではなく、オタクとしてのスタンスの違いにすぎないだろう。どこのオタクも、根本は変わらないのだなとうれしくなった。

 次週は今回の後編。スーさんの安否は、そして愛美の進退は。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2023/02/07 13:54
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