【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

Netflixドキュメンタリー『ハリー&メーガン』が映し出すメーガンの葛藤と傲慢

2023/02/11 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

そもそもNetflixの番組構成に疑問

 番組の構成にも首をひねらざるをえない部分がありました。本当はここまでお話してきた“貴賤結婚”の影の部分が大きく影響しているのに、それを“人種問題”に置き換えてしまっていた点です。番組を見た限り、メーガンさんは、ハリウッドで女優として役を得るために「有色人種の女優」というラベリングを受け入れたにすぎず、それまでの人生では黒人女性として誰にも扱われず、話を振られることもなかったと認めていましたが、それは「自分がそのように振る舞う必要がなかった」ということです。つまり「有色人種」として生き始めて、さほど時間も経っていない女性が、ほんとうに人種問題の当事者といえるのかどうかという話ですね。

 さらに、そういうメーガンさんとヘンリー王子がイギリスを出ていったことが、有色人種の多い国々で“象徴的意味”を持ち、2021年11月30日に式典が開かれましたが、カリブ海の島国・バルバドスが、英国王を君主と仰ぐ立憲君主制から共和性に移行した事件の主要原因であるかのように『ハリー&メーガン』が主張したのは、大きな疑問です(エピソード5)。

 実際、エリザベス女王の死をきっかけに、バルバドスと同じカリブ海のアンティグア・バーブーダでも、共和性への移行を問う国民投票が現在、行われているのは事実です。しかし、この件もイギリスより、中国に対する経済的依存度が高まっているので、いずれは「コモンウェルス(Commonwealth of Nations、いわゆる英連邦)」から離脱して完全独立したほうがよいのではないかという壮大な議論が主目的のはずで、いわゆる「メグジット問題」との関係は薄いでしょう。

 英国に数あるタブロイド誌をはじめ、報道メディアにデタラメの「ストーリー」を作られつづけたと訴えておきながら、今度は自分が離脱したイギリスという国、英王室という権威に後ろ足で砂をかけてみせるような行動で、「後悔しても知らないぞ」と、ハリー&メーガンが吠えているのは、呆れてものがいえませんでした。

 現在においても、王族に許されうるもっともラディカル(革新的)な言動は、伝統的な何かの保存……つまり本当の意味での「保守」が中心となるわけで、活動家としての色彩の強いメーガンさんには結局のところ「王室離脱」しか選択肢はなかったのでしょう。

 それにしても、王室からの経済的援助が得られず、警備面で問題が出てきたカナダの邸宅を出た後は、面識がない人のロサンゼルスの邸宅に転がり込み、何週間も滞在していたエピソードが番組では披露されましたが、過剰な恐怖心とは裏腹の腰の軽さは大問題です。

 タレント活動に行き詰まったころ、どこかの国の独裁者から、「うちの(お飾りの)国王になって」などといわれて、ホイホイと即位、その後、政権が打倒され、独裁者にも見捨てられ、ハリー&メーガンの身も危うくなる……などという「ストーリー」がありありと脳裏に浮かんでしまいました。

 実際に19世紀後半、ハプスブルク家の皇帝の弟に生まれたマクシミリアン皇子が、皇位継承者にはなりえず、飼い殺しというしかない現実に辟易として(ちょうどヘンリー王子が自身を「スペア」呼ばわりするように)、「メキシコ皇帝にならないか?」という誘いを真に受けて海を渡り、メキシコの地で念願の皇帝即位を遂げたものの、わずか3年で政局が変化、後ろ盾からは見離され、当地で革命勢力から処刑されて死亡という憂き目を見ているのです(詳しく知りたい方は拙著『愛と欲望の世界史』をどうぞ)。

「歴史は繰り返す」といいますが、ヘンリー王子とメーガンさんの未来が明るいものであることを願うほかはありませんね……。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

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Twitter:@horiehiroki

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最終更新:2024/02/13 10:27
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