仁科友里「女のための有名人深読み週報」

『あちこちオードリー』若林正恭、「人を傷つけない」ための過剰な気遣いが生んだ“嫌なシニカル”

2022/12/29 21:00
仁科友里(ライター)

私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。

『あちこちオードリー』若林正恭、「人を傷つけない」ための過剰な気遣いが生んだ“嫌なシニカル”
シニカル芸人は冬の時代?(C)サイゾーウーマン

<今回の有名人>
「テレビ局が教育してくれよ」オードリー・若林正恭
『あちこちオードリー』(12月21日放送、テレビ東京系)

 「キャラ」という武器を引っ提げてテレビの世界に挑み、人気を得た芸人は少なくない。しかし、だからといって、安心はできないだろう。なぜなら、自分も時代も変わるからだ。

 例えば、ダメ男とばかり付き合い、痛い目に遭ってきた経験をウリにする恋愛ベタキャラのオンナ芸人が結婚したら、もうこのキャラは使えない。また、「ブス」「ババア」というように女性をイジる芸風で人気を博した毒舌キャラのオトコ芸人も、コンプライアンスを重んじる今の時代には合っていないので、このやり方はもう通用しない。

 現在の自分に即した個性を発揮しつつ、時代と乖離しない芸風を貫くというのは、口で言うほど簡単なことではないが、特にシニカルな芸風が評価され、売れっ子になった人にとっては、かなりの難所だろう。「人を傷つけない笑い」がよいとされる時代、シニカルな物言いが「人を傷つける」として、世間に受け入れられない可能性は十分にあるし、加えて売れっ子という立場でそれをやると、さらに嫌みな印象を与えかねない。かといって、シニカルさを捨ててしまうと、個性が死んでしまう。

 現在の立場と時代、そして芸風のはざまで、オードリー・若林正恭は時々こんがらがっているように見えることがある。彼はまさに、シニカルな芸風が受けて、人気を博すようになった売れっ子芸人だが、「人を傷つけない」ようにと過剰に気を使うことで、逆に嫌な意味でのシニカルさが前に出てしまっていないだろうか。

 例えば、12月14日放送の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)。ゲストは相席スタート・山添寛、岡野陽一、ザ・マミィ・酒井貴士で、彼らはギャンブルで散財していることから「クズ芸人」と呼ばれることもある。

 しかし、若林は「人の目を気にせず、自由に生きているように見える」ことから、彼らに憧れているという。若林のような売れっ子芸人に評価されて、「クズ芸人」たちもうれしいだろうが、その理由がちょっと“微妙”なのだ。

 若林は、彼らを好きな理由について「たまに『あちこちオードリー』で、『うまいこと自己プロデュースして、もう1ランク上へ』って目をしている人がいるけど、3人はそういう目をしていない」と説明し、芸人が「賢くなってきて、戦略練って先々まで(考えて)生きてる」中、3人は「今を生きてる」とも指摘。自分より売れていない、「クズ芸人」と呼ばれる彼らを傷つけないよう、ほかのタレントをシニカルに腐したわけだ。

 しかし、それって結局、若林は「どんなことをしてでも、上に行こうと思っている芸人が嫌い」ということではないだろうか。芸人がどうにかして売れたいと願うことは、まったくおかしなことではなく、そこを勝ち抜いて今の地位を得た若林なら、なりふり構わず頑張る芸人の姿に、ある程度の理解を示してもよいと思う。

 若林の物言いは、彼の「社会的な上下に厳しく、自分が上でいることに固執するあまり、積極的に売れようとしない下をかわいがるという冷酷な一面」を露呈させてしまったように感じられ、これは行きすぎたシニカルで、見ていてあまり気持ちいいものではなかった。

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