『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』甘酸っぱくない訳アリ依頼も「ラブレターを書く人 ~愛を伝えたい人々と代筆屋~」

2022/12/13 13:50
石徹白未亜(ライター)
『ザ・ノンフィクション』甘酸っぱくない訳アリ依頼も「ラブレターを書く人 ~愛を伝えたい人々と代筆屋~」
写真ACより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月11日は「ラブレターを書く人 ~愛を伝えたい人々と代筆屋~」というテーマで放送された。

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 IT企業の取締役である小林慎太郎はラブレターの代筆を副業にしている。8年前から代筆を始め、これまで綴ったラブレターは160通以上。ただ、当初、小林が想定していたような甘酸っぱい依頼はほとんどなく、「訳アリ」な依頼が多い。料金は1通1万円。事前に対面の打ち合わせをしたり、文面ができたあとも対面で確認を取ったりと、かなり手間がかかっているようだ。

 番組では小林に代筆依頼をした2人の男性を紹介していた。1人目の依頼者は45歳の寺木。手紙を送りたいのは、推しの地下アイドル・ヒカリ(仮名)だ。寺木は半年前から“推し活”をしており、ヒカリとのツーショット写真をチェキ帳に大事に保管している。週に3回以上ライブ会場へ足しげく通っていたのだが、ヒカリの所属しているアイドルグループが解散することになり、最後のコンサートの場で渡す手紙を小林に依頼した。

 小林は寺木の誘いでヒカリのライブ会場にも足を運び、ラブレターを渡す相手に会い代筆し始めた。手紙にはヒカリへの感謝と、よかったら食事を一緒にしたい、としたためられていた。その後、これまでヒカリからの返事はないというが、区切りをつけられた寺木はすっきりとした様子だった。

 思いを込めたラブレターを代筆している小林だが、一方で家庭では寡黙なようだ。妻は小林から手紙をもらったことは付き合う前にあったきりだそうで、結婚も3年の交際を経て、妻から「結婚するか別れるか」と言い寄られた末だったという。

 妻は小林について「何考えてるんだろうって思うこともあるし、そんなに自分のこと言わないから。私に対しても、興味がないって言ったら変なふうに聞こえちゃうかもしれないけど」と“暖簾に腕押し”な状況だと話す。そんな妻の切実な言葉に対しても、小林は目を合わすこともなく「なるほど」と返すだけだった。

 2人目の代筆依頼者は、横浜で町中華を営む81歳の阿部。手紙を送りたいのは40年間音信不通の娘だ。阿部は脱サラして中華料理店を始めたのだが、子育ては妻に任せきり。妻はサラリーマンに戻ってほしかったようで、夫婦はすれ違っていき、娘が4歳の時に離婚した。その後、阿部は子どもたちの養育費は払ってはいたものの、一度も会っていないという。

 今になって阿部が娘に会いたいと思ったのは、20年連れ添った女性を昨年亡くしたことが影響しているように思われた。小林は阿部の店にも足を運び、常連がくつろぐ店で阿部の料理を食べる。そして、代筆した手紙には阿部の娘が小さかった頃の思い出や、よかったら店に来てほしいという願いを綴る。投函から1カ月たっても娘からの返信はないようだが、送ったこと自体は、阿部にとっていい区切りになったようだった。

『ザ・ノンフィクション』ラブレターにも“センス”が問われる

 学生の頃、女友達がもらったラブレターを見せてもらったことがあるが、見事なポエムで度肝を抜かれた。女友達も、自分一人ではその愛の重さに耐えきれなかったのだろう。送り主は同級生の男子で、私もその人のことは知っていたが、こんなラブレターをしたためるような人には見えず、そこにもびっくりした。

 その彼にしてみれば、これがベストで全力の、最高のラブレターだったのだろう。歌に“音痴”がいるように、ラブレターにおいても壊滅的にセンスのない人はいるのだと知った。今回の放送を見て「ラブレターくらい自分で書けば」と思った人もいるだろうが、代筆サービスを利用したほうがいい人は案外いるのかもしれない。

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