白央篤司の「食本書評」

ひとり暮らしのムリしない料理のコツは、ほどよくラクに「そこそこおいしい」! 自分のための食事をどうする?

2022/08/13 14:00
白央篤司(フードライター)

手軽なアイディア料理だけでなく、手間のかかる料理も紹介

 日々の料理をどう作りやすくするか。ひとり分を賢くラクに作り続けるにはどうするか、という大庭さんの工夫の数々がつづられていく。大根やにんじんは千切りにして保存、青菜ならひと束丸ごとゆでておく。そしてそれらを実際にどう使うかが、レシピで示されていく。

 ストックしておくと便利なものとして挙げられるもののひとつ、切り干し大根はアーリオ・オーリオやチンジャオロースーの具にも使われる。はんぺんはアボカドとチーズ焼きに、魚肉ソーセージはじゃがいもと炒めものにするなど、「こんな風に使ってもいいのか」という発見が楽しく、視野が広がる思い。

 手軽なアイディア料理だけでなく、手間のかかる料理も紹介される。ラクに済ます日もあれば、好きなものをきちんと作る日もあるというメリハリ。「ひとりでもとんかつ!」のページには見上げるような思いになった。「大好きなとんかつは、やっぱり自分で揚げるに限ります」というセリフを私は68歳のときに言えるだろうか。言える気骨を持っていたい。なんだか刺激されて、そんなふうにも思えてきた。

 ああ、欲を言えば、「食欲とやる気」を保ち続けるために、大庭さんが大事にしていること、実践されていることなども知りたかった。自炊を続けていく上での彼女なりのマインドセット、みたいなことも。どうやって(仕事ではなく日常の料理を)作る気持ちを燃やし続けてこられたのか、是非ともうかがってみたい。

 ひとり暮らしだけでなくふたり暮らしにも、また幅広い年代の方にも参考になる本だと思う。最後になったが、邑口京一郎氏による料理写真がまた実にいい。 誘われるようなぬくもりと香りがあって、料理心がくすぐられる。

 しっかりと一生、料理を続けていきたいあなたに。

白央篤司(フードライター)

白央篤司(フードライター)

フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『自炊力』(光文社新書)など。

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最終更新:2022/08/13 14:00