結婚おめでとうございます!

滝沢カレンの文章は、なぜ読む人の心に響く? プロの校正者が「文章センスはずば抜けている」と評価

2022/07/12 16:35
校正・校閲者A氏

滝沢カレン、プロの校正者が唸った3つのポイント

 では、校正・校閲者として、特に唸った3つの箇所を具体的に考察していきましょう。

その1
「皆様に今までで一番の自分事にはなりますが、」

 冒頭の一文から、ネット上で話題になっていますが、通常、「自分事」は「私事」といい、それを反映させ文章にすると、「私事で大変恐縮ですが、皆さまにひとつ大きなご報告があります。」といったシンプルな形になります。ただこれではほぼ定型文。無難で味気なく、滝沢さん“らしさ”は不在の状態となってしまいます。

 一方、滝沢さんが書いた前置きは、「自分にとって、これまでの人生における最大の出来事」というようにも「皆様への打ち明け話としては過去最大」のようにも読め、「とにもかくにも早く皆様に伝えたい!」と言ったウズウズした感情が相まった文章のように感じ取れます。はやる気持ちを抑えられないんだなと思わせる効果があるわけです。

その2
「現在建築のお仕事をさせていただいてる方と、」

 これも普通に言えば、「建築関係の仕事に就いている男性と、」などでよいわけです。しかし、滝沢さんの謙虚さ、誠実さからなのか、仕事をしている当人(ご主人)に成り代わって、仕事への感謝の気持ちを伝えようとしているようにも読めます。「うちの主人がいつもお世話になっております」といった社交辞令的要素も含んでいるのかもしれません。

その3
「記憶をほとんどその日に置いてくる私ですが、出会ったときの季節、景色を今でも思い出せます。」

 今回の結婚報告文の中で、最も「滝沢カレンらしい」と高評価を得ている一文です。校正しようにも、この部分こそ滝沢さんの真骨頂、本来触るべきではないでしょうが、テイストを保持しつつリライトを試みると次のようになりました。

「その日の記憶のほとんどを、その日のうちに忘れてしまう(忘れようと努める)私ですが、彼と出会った日のことは、その季節、そのとき二人で見た景色まで今でも鮮明に思い出せます。」

 リライトをしながらあらためて、彼女の文才に気づかされました。彼は、出会った時から特別な存在だったと伝えるために、忘れん坊な自分の性分、もしくは持ち前の卓越した忘却スキルを引き合いに出し、その上で初めて「思い出に浸ることで得る幸福感」があることを知った……滝沢さんは、そう伝えようとしているのではないでしょうか。「記憶を置いてくる」は「置き忘れ」ではなく「わざと置いてくる(=忘却スキル)」を示唆させ、秀逸な表現だと感じました。

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