ドラマ俳優クロニクル

木村拓哉、“封印”されたドラマ『ギフト』の魅力――今とは違うダークヒーローとしての存在感

2022/06/09 20:30
成馬零一

木村拓哉のダークヒーロー的な魅力と、『ギフト』の悲劇

 つまり『ギフト』の木村には、萩原、松田、沢田が過去に見せた魅力が投影されているのだが、90年代の木村主演ドラマが面白いのは、作品ごとに作り手が木村に演じさせたい魅力的な男性像が微妙に違うことだ。

 『その時、ハートは盗まれた』『あすなろ白書』『ロングバケーション』(すべてフジテレビ系)といった、北川悦吏子氏の脚本で木村が演じた役は、優等生で気弱な青年。どちらかというと、少女漫画の王子様的な存在だった。対して『若者のすべて』(同)や『人生は上々だ』(TBS系)で木村が演じた役はワイルドなチンピラ風で、男が惚れる男の風貌であった。

 『ギフト』はどちらかというと後者だが、全裸で登場する冒頭の場面を筆頭に、とてもセクシーな存在として描かれた。同時に、普通の人が躊ちょするような、反社会的で危険な行為ですらクールにこなす、ダークヒーローとしての魅力も強くにじみ出ていた。しかしこれが、のちに作品を悲劇に巻き込んでしまう。

 最終話、記憶喪失だった由紀夫の過去がついに明らかになる。本当の由紀夫は「溝口武弘」という悪党で、仲間のチンピラとともにケンカやセックスに明け暮れており、護身用にバタフライナイフを持ち歩いている危険な男であった。

 『ギフト』放送終了後の98年。13歳の少年がバタフライナイフで教師を刺殺する事件が起きた。少年は同作でナイフを使う木村の姿を「カッコいい」と思い、自身も購入したのだと語った。これにより同作は“封印”され、各テレビ局で再放送が中止に。2019年にDVD-BOXが発売されるまで幻の作品となっていた。

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木村拓哉という人間、あまりにも「伝説」だな……
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