佃野デボラのホメゴロシ!

『ちむどんどん』は対象年齢3歳~。ヒロイン・暢子一家の借金問題だって“なんとかなる”、史上最も“やさしい”朝ドラ

2022/05/21 16:00
佃野デボラ(ライター)

「愛すべきクソゲー」にも似た味わいの作劇

 お子様向けであると同時に、この朝ドラは、初代ファミコンの大味なゲームのようにも感じられる。“1面”(1週)ごとに登場する、背景も人格もまったく描かれていない、あからさまな「敵役」の雑魚キャラが実にゲーム的だ。「小獣・ヤーイボロボロー」(「貧乏」を理由に突然狂ったようにヒロイン4きょうだいをいじめ出す島袋)や、「妖怪・オンナノクセニー」(暢子の就職先となるはずだったが、ステレオタイプの性差別をかましてくる眞境名商事の幹部たち、そして社長の息子)などが“各面”でヒロインの前に立ちはだかるが、だいたいぶん殴るかバックレるかで攻略できる。

 世界観やストーリー、人物の心情を「描写」するのではなく、設定を「説明」するだけというのも、ゲームっぽい。
 
「ここは ほんどふっきまえの おきなわ」
「のぶこのいえは びんぼうでした しゃっきんも ありました」
「でも ゆうこの きょうどうばいてんでの しゅうにゅうと 
はたけしごとだけで せいかつは どうにかなりました」
「のぶこは とつぜん おもいました 
とうきょうで りょうりにんに なりたい!」

 「そういう設定なんで、つべこべ言わずに、そういうものとしてプレー(視聴)してください」ということらしい。ここまでくると、いっそ清々しい。

 本土復帰前後の沖縄が舞台の『ちむどんどん』だが、「それを題材に選んだ意味を見いだせない」という点において、人気漫画『タッチ』(小学館)のゲーム化を謳いながら犬を探すだけのクソゲーだった『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』(1987年発売)に通じるものがある。

 また、暢子が青いシークワーサーをかじれば戦闘力が1.5倍増し、さまざまな試練を蹴散らすことができるという設定は、主人公の筋肉が薬によって増強され、無敵になるクソゲー『突然!マッチョマン』(88年発売)を彷彿とさせる。なにより「突然!」という世界観が似ている。『ちむどんどん』に副題をつけるなら、「突然!料理人」というのはどうだろうか。 

 さらに、地元の山原高校の音楽教師・下地先生(片桐はいり)と、歌がうまい4きょうだいの末っ子・歌子(上白石萌歌)がしつこく繰り返す「追いかけっこ」は、歌子をかくまった風呂敷の模様に、下地先生が目を回すというオチも含め、クソゲー内ミニゲームの様相を呈していた。もちろん、このミニゲームによるボーナス(物語へのなにがしかの寄与)は一切ない。

 しかし多くの人が「クソゲー」という言葉を口にする刹那、心に宿るのは懐旧と愛着の念だ。この朝ドラも、そんな「いろいろと雑で無茶苦茶だけど、なんだかんだクセになって、つい最後まで見てしまう」という“味わい”を目指しているような気が、しないでもない。

連続テレビ小説 ちむどんどん Part1
「なぜかハンマー」を振り回しながら物語は続く
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