崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

映画『野球少女』で描かれた、韓国初の女性野球選手はいま――物語とは決定的に異なる「悲しい」結末

2022/03/25 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『野球少女』の評価は高いが……誤ったフェミニズム理解に結びつく危険性も?

<物語>
 全国で唯一、高校の野球部に所属する女子選手であり、「天才野球少女」と呼ばれ注目を浴びていたチュ・スイン(イ・ジュヨン)。彼女の夢は高校卒業後、プロ球団に入団して野球を続けることだ。だが、かつてはスインの実力に到底及ばなかった同級生男子が、彼女の身長を追い越し力もつけて、ドラフト指名を受けるまでになる。スインが持つ134キロという最高球速記録も、凡庸な数字にすぎなくなってしまった。

 女子であるという理由だけで入団テストの機会もろくにもらえず、家族や監督からも現実を見るよう諭されるが、スインは諦めずに日々練習に励む。そんなある日、野球部に新しいコーチのジンテ(イ・ジュニョク)がやってくる。最初はまともに取り合わなかったジンテも、めげないスインの姿に徐々に心を動かされ、“球の回転数が多い”というスインの長所を伸ばした指導を行った結果、やがて大きなチャンスが訪れるのだが……。

 本作に対しては、「女性の能力に限界がないことが証明された」「わが娘にも見せたい」といった好意的なレビューが多く、ひたむきなスインが「ガラスの天井」を打ち破っていく姿に共感し、多くの観客が拍手を送ったことがわかる。だが一方で、「ジェンダー平等」や「フェミニズム」の文脈から映画を見た場合、スポーツ競技において男女が同じ土俵で競い合うことへの疑問や、“女が男に勝つ・女が男になろうとする”というフェミニズムの誤った理解に結びつくことの危険性を感じないわけではなかった。

 「女だから無理」という周囲の無理解と闘うスインと、幼い頃は自分のほうがはるかに優れていたにもかかわらず、成長の過程で男性に追い抜かれるという、野球の能力ではない生物学上の理由によって苦しむスインを、同じ問題として捉えるべきではないと思うからだ。

野球少女
男子ばかりの「甲子園」に違和感を抱くように……
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