崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

映画『野球少女』で描かれた、韓国初の女性野球選手はいま――物語とは決定的に異なる「悲しい」結末

2022/03/25 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし、作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『野球少女』

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『野球少女』/松竹

 韓国には、野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールと4種目の代表的なプロリーグが存在する。中でも、プロ野球の人気ぶりはほかの追随を許さない。日本やアメリカとたがわず、韓国プロ野球もまた、開幕すればほぼ毎日のように試合が行われ、テレビやインターネット、衛星放送で生中継されるのはもちろん、老若男女幅広くファンを持つ国民的なスポーツだ。

 日本では、野球とサッカーは国を二分する人気スポーツといえるが、韓国では野球がサッカーの3倍の観客動員を誇っている。ワールドカップのようなサッカーの国際試合における韓国人の熱狂ぶりを思うと、国内リーグでの観客数の少なさ、国民の無関心ぶりには驚くばかりだが、ともすると日本以上にスポーツがナショナリズムと結びつきやすい韓国において、プロ野球がいかに韓国人の「日常生活」に浸透しているかを物語っているといえよう。近年では本場のアメリカや日本のプロリーグに進出する選手も増え、韓国プロ野球の実力の底上げを証明している。

 にもかかわらず、上記の4大スポーツの中で唯一「女子プロリーグ」を持たないのが、野球であるということもまた、韓国の現状にほかならない。いや、プロうんぬん以前に、女子野球部のある中学・高校はひとつもなく、女性は“趣味”で野球をやるもの、という先入観が強く根付いている。プロリーグを可能にする土台が皆無であり、そもそも、女子プロ野球選手という発想自体がないのだ。

 もっとも、このような事情を抱えているのは韓国だけではない。野球の宗主国アメリカでさえ現在女子プロ野球は存在しないし、日本は2009年に女子プロ野球機構(JWBL)が発足したものの、昨年「無期限の活動休止」を発表し、事実上消滅している状況だ。観客動員がもたらす莫大な興行収入を前提とするプロリーグの実現には、選手の土台とは別に、どうしても大きなハードルがあるといわざるを得ない。その背景には、国民の間にまん延する「プロ野球=男性の専有物・女性には無理」といった、無意識の固定概念があるのだろう。

 そうだとするならば、プロ野球選手になって大歓声の中グラウンドを走り回りたい、と願う女性はどうすればよいのだろうか? 

 今回取り上げる映画『野球少女』(チェ・ユンテ監督、2019)の冒頭で説明されていたように、韓国野球委員会(KBO)は1996年、所属選手を男性のみに制限していた規則を撤廃し、女性がプロ野球選手になる可能性を一応は開いている。だが現実として、いまだかつて女性プロ野球選手は実現していない。

 かといって、プロに挑戦した女性がまったくいなかったわけではない。「禁女の領域」とまでいわれるプロ野球のマウンドに立つために幾度もトライアウトに参加し、偏見と差別という高い壁に向かってボールを投げ続けた選手がいたのだ。彼女の名はアン・ヒャンミ。韓国で野球選手として公式に登録された最初の女性だ。

 今回のコラムでは、プロ野球選手という夢に向かって真っすぐに走る少女を描いた『野球少女』を取り上げ、監督自ら「モデルにした」と明かしたアン・ヒャンミの野球人生と照らし合わせながら、現実と映画の違いや、映画が伝えようとするメッセージについて考えてみたい。

野球少女
男子ばかりの「甲子園」に違和感を抱くように……
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