【サイジョの本棚・打ち合わせ編】

女性ボディビルダーが陥ったジェンダーの皮肉/肥満や女性に向けられる嘲笑/「自分の体は自分のもの」を知る2冊

2022/03/05 14:00
保田夏子
『我が友、スミス』『わたしの体に呪いをかけるな』の2冊は、「自分の体は自分のもの」を確認するための心強い伴走者の画像1
(C)サイゾーウーマン

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

ブックライター保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

「強くなりたい」はずの女性ボディビルダーが陥る、ジェンダー規範

保田 2月15日、プロeスポーツ選手として活動していた女性が、配信中に男性の身長や女性のバストサイズについてあげつらう差別発言をしたとして、後にスポンサー契約を解除されました。

A子 ニュースの反応を見ていると、「見た目への批判を受け止めてこそ、人間として成熟する」といった層もいまだ一定数いるんですよね。男女関係なく、望んでいない他人に向かって、外見で人格や人全体まで格付けすることはないと思うのですが。

保田 ということで、「自分の外見と他人からの評価」について考えるのにおすすめしたい本を取り上げたいと思います! 1冊目は『我が友、スミス』(石田夏穂、集英社)です。ボディビル(正確にはフィジーク)競技に飛び込んだ女性を主人公とした中編。登場する女性のほとんどが違った美学を持っていて、各々格好いいんですよ。

A子 1月の芥川賞候補作ですね。ボディビルというと、多くの人にとっては知られざる世界ですが……。

保田 膨大な情報量で解説されているうちに、知らぬ間にボディビルの世界に引き込まれていきます。「別の生き物になりたい」「やればやるほど強くなる」という理由で日々筋トレに励んでいた会社員女性・U野が、トレーナーO島にスカウトされ、本格的な競技大会に臨む話です。

A子 筋トレ自体はコロナ禍の運動不足の解消手段として、あらためて注目されていますが、意外とその延長線上にボディビルがあるんですね。

保田 もともとU野の「別の生き物になりたい」という願望の底には「ジェンダー規範から外れたい」という思いが見え隠れしているんです。しかしフィジークで勝つには「女性らしさ」も審査されるので、髪を伸ばし、ハイヒールを買い、エステにも通うようになる――。

A子 「女性の役割から外れたい」を突き詰めた結果、外見上は旧来のジェンダー規範に絡め取られてしまうなんて皮肉ですね。

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