中国芸能界とファンの今【前編】

中国アイドルオーディション番組『偶像練習生』大ヒットの功罪ーー政府の「推し活」規制に、現地ファンの“意外な本音”

2022/03/12 20:00
はちこ

 BTSやBLACKPINKなど、「K-POP」アイドルたちが世界的に人気を集めるようになって久しい。

 彼らの活躍は日本のアイドル界にも影響を与えており、K-POPの影響を受けたオーディション番組が多数放送されきた。19年には韓国の人気オーディション番組『PRODUCE 101』の日本版『PRODUCE 101 JAPAN』(GYAO!、TBS系)が放送され、11人組ボーイズグループ・JO1が誕生。20年には、日本のソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントによる日韓合同のグローバルオーディションプロジェクト『Nizi Project』(Hulu、日本テレビ系)が大ヒット。9人組ガールズグループ・NiziUが結成された。さらに、21年放送の『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』(GYAO!、TBS系)からはINIが生まれている。

 実は中国でも同様にオーディション番組が人気を博し、21年に中国の動画配信サービス「WeTV」で放送された『創造営2021』は、国内で社会現象に。一方で、ファンがアイドルを応援する活動、通称「推し活」が中国政府によって規制されるなど、不穏な話題も飛び交った。

 一体、中国のアイドル界で何が起こっているのだろうか? 中国オタクカルチャーに詳しい中国出身ライター・はちこ氏が、現地のアイドルファンの声も交えながら、“中国芸能界とファンの今”について寄稿してもらった。

中国アイドルオーディション番組『偶像練習生』大ヒットの功罪ーー政府の「推し活」規制に、現地ファンの意外な本音の画像1
Getty Imagesより

 去る2021年は中国アイドル業界にとって波乱万丈の1年だった――という書き出しにしようと考えていたのだが、年度を置き換えてしまえば過去の数年、おそらくこの先の数年間もこの文章から始まってしまうと気づいた。

 日本や韓国のアイドル文化を吸収し、独自のインターネット文化と若者文化を融合させた中国のアイドル業界は、流行と常識が大変速いスピードで切り替わり、中国人のファンでさえ追いついていくので精一杯だ。

 この記事では、実際に中国のアイドルを追いかけている中国在住のアイドルファンの声を紹介しながら、昨年日本でも話題になった、中国の「推し活規制」に至るまでの経緯を整理したい。また、後編では今回の規制が中国進出を狙う日本のアイドルや芸能事務所にどんな影響を与えるかについても解説していきたいと思う。

中国における男性アイドル事情――オーディション番組『偶像練習生』が大ヒット

 まずは簡単に、近年の中国における男性アイドル事情を振り返っていこう。14年頃から、ジャニーズ事務所における「ジャニーズJr.制度」のようなものを設け、アイドルを育成していく芸能事務所が現れた。その流れから、韓国の大人気アイドルオーディション番組『PRODUCE 101』をモデルとして、ネット動画配信大手の「iQIYI」が制作した『偶像練習生』が、18年に異例の大ヒットを収める。

 以降、中国では同じ形式のオーディション番組が毎年、複数の動画配信サイトによって制作・放送されるようになった。オーディション番組は数カ月の放送で多数のファンがつくため、事務所でアイドルを育成するのに比べてコストが低く、その回収も早い。

 また、ネット配信番組はテレビ局が制作するものに比べて構成や企画が目新しく刺激的などの理由も相まって、若い世代の視聴者からも圧倒的に支持されていた。 
 
 さらには、「練習生」と呼ばれるオーディション参加者たちにとってもメリットが大きい。これらのオーディション番組からデビューしたグループは、ほとんど活動期間が2年間に制限されている。とはいえ、デビューさえできれば2年間の仕事が約束されるため、その期間中に一躍トップスターになることも夢ではない。

 このように、ネット配信のオーディション番組が特に盛り上がった状態の中では、アイドルを目指す人たちにとって、オーディション番組が“唯一のビッグチャンス”だといっても過言ではないのだ。

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オーディション参加者たちはやるせないだろうね……
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