[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

人気の韓国映画『7番房の奇跡』、時代設定が「1997年」だった知られざる理由

2022/02/04 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『7番房の奇跡』、時代設定が1997年設定の理由

 韓国では97年を最後に死刑の執行が停止されており、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」からも「実質的死刑制度のない国」と分類されている。民主化が進んだ90年代後半、この事件のような冤罪による被害、中でも人の命を奪う「死刑」(特に軍事独裁時代は、権力の暴走による理不尽な死刑が多発した)をめぐっては慎重になるべきだという議論が高まって以来、死刑廃止の賛否について、いまだ世論が対立している状態である。

 こうした議論は、パク政権時代に実際に死刑宣告を受けたキム・デジュン元大統領が、在任中に死刑廃止を主張してから始まったとされている。そして廃止論者がその根拠として言及する代表的な裁判が、「司法殺人」の代名詞ともなっている「人民革命党事件」である。略して人革党事件とも呼ばれるこの出来事は、64年と74年にKCIAが「北(北朝鮮)のスパイ」と罪を捏造したことで無実の人々が死刑になったという、独裁政権の最も悪らつで汚い手口が露呈した事件だ。

 64年といえば、翌年結ばれることになる日韓基本条約の締結に反対する学生デモが、連日全国各地で繰り広げられていた。それに対してパク政権が非常戒厳令を敷き、大々的な鎮圧に乗り出すと、KCIAはデモの混乱に紛れて「北の指令を受けて人民革命党を組織し、国家をかく乱しようとしたアカ(共産党員)たちを検挙した」と発表。ジャーナリストや大学教授、学生らを拷問し、彼らが存在すらしない「人民革命党」の党員で、国家の転覆を企んだと自白させたのだ。あからさまな捏造と凄まじい拷問に、さすがの検察も起訴を断念しようとしたが、KCIAは逆らうことのできない相手であり、良心にさいなまれた担当検事は4人中3人が自ら辞職する結果となった。

 その後、捏造の疑惑と拷問に社会は強く反発。結局「捏造された主犯」たちは懲役1~3年の実刑判決を受けたが、そうでなければ間違いなく死刑になっていたことだろう。だがこれは序の口にすぎなかった。それから10年後、韓国史上最悪と言われる2回目の人民革命党事件、いわゆる人民革命党再建委員会事件の裁判が彼らを待っていたのだ。

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命が軽く扱われていることにゾッとする
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