[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

ベトナム戦争の虐殺被害者の証言と市民同士の連帯を映した、韓国ドキュメンタリー映画『記憶の戦争』

2021/11/19 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

民主化運動弾圧へと受け継がれた負の連鎖

(C)2018 Whale Film

 一方で、韓国政府の消極的な姿勢には、ベトナム政府との関係も絡んでいるという見方もある。政府レベルでの真相究明には同国政府の協力が不可欠だが、ベトナム軍による自国民の虐殺が発覚することを恐れて同国側も積極的ではないというものだ。実際、当時のベトナムでの虐殺の中には、韓国軍の格好をしたベトナム軍による殺りくを疑う声もあり、真相究明に乗り出せば、同国にとっての不都合な真実もまた露呈される可能性は否めない。

 歴代の韓国大統領たちの中で、進歩派である金大中(キム・デジュン)、廬武鉉(ノ・ムヒョン)、そして現在の文在寅(ムン・ジェイン)の3人は、ベトナム戦争への参戦について正式に「謝罪」しようとしたものの、「戦勝国(=ベトナム)が敗戦国側から謝罪を受けるのはおかしい」とベトナム政府が難色を示したため「遺憾」に変更せざるを得なかったともいわれている。映画では言及されていないが、こうした複雑な政治的事情が絡んでいることも忘れてはならないだろう。また、元参戦軍人たちの集団的な主張に対してはカメラを向けるものの、虐殺を証言している者も含めて「個」としての彼らの言葉ももっと引き出してほしかったというのが正直な感想だ。

 いずれにせよ、ベトナムにおける韓国軍による虐殺は否定できない事実であり、韓国政府がこれを認めなければならないのは言うまでもない。「我々がベトナム戦争の問題を解決しなければ、日本との歴史問題も解決できないだろう」というソウル大学のパク・テギュン教授の指摘に、政府は耳を傾ける必要がある。「歴史を正す」という政府の主張が、都合のいい部分だけを正すという意味ではないことを信じたいと思う。

 最後に、教練教員の武勇伝にあった死体損壊について一言付け加えよう。当時軍人だった全斗煥(チョン・ドファン)もまた、司令官としてベトナムに赴いているが、彼が率いる部隊では、戦果を膨らませ、米軍からより多くのドルを得るために、民間人まで殺して身体の一部を切り取っていたという証言もある。その全斗煥が約15年後、韓国・光州で多くの民間人を虐殺したことは歴史が示す通りだ。ベトナムから光州へ、残酷極まりない恐ろしい負の連鎖が続いていたことに、韓国人として暗澹たる思いを禁じ得ない。虐殺の被害者のため、真実は必ず究明されなければならないのだ。 

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正  戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻  スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

『記憶の戦争』

監督:ギイル・ボラ (『きらめく拍手の音』)
プロデューサー:ソ・セロム、チョ・ソナ/撮影クァク・ソジン
エグゼクティブプロデューサー:イギル・ボラ/プロダクションデザイナー:クァク・ソジン
編集:パトリック・ミンクス、イギル・ボラ、キム・ナリ、キム・ヒョンナム/音楽:イ・ミンフィ

製作:Whale Film |英題:UNTOLD|原題:기억의 전쟁

2018年|韓国|韓国語・ベトナム語|カラー| 79分| DCP | (C)2018 Whale Film
宣伝美術:李潤希/配給・宣伝:スモモ、マンシーズエンターテインメント

最終更新:2021/11/19 19:00
ベトナム戦争と韓国、そして1968
証言できる人が減っていくと考えると、恐ろしいな

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