[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

『イカゲーム』のイ・ジョンジェ主演! エセ宗教問題を扱ったオカルト・ミステリー『サバハ』に見る韓国人の宗教的心性

2021/10/29 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『サバハ』 エセ宗教団体が、韓国史上初の大事件につながった

 チェ・テミンは70年代に「永世教」という仏教・キリスト教・天道教を組み合わせたエセ宗教団体を作り、弥勒菩薩を自称して教祖となった。ところがパク・クネとの交流が頻繁になると永世教を解散、今度は「牧師」になり(キリスト教側は金で牧師の資格を買ったのが発覚し追放したと主張)、「救国宣教団」という団体を作ってパク・クネを名誉総裁に仕立て上げた。

 この団体は「救国奉仕団」「セマウム奉仕団」と名前を変えながら、公には自然保護や貧民救済などの社会奉仕活動をしたものの、裏では権力を後ろ盾にさまざまな不正をはたらいて蓄財したことは韓国では誰もが知る話だ。

 だが一番の問題は、チェ・テミンが牧師の仮面をかぶって、当時、母(パク・チョンヒ元大統領の妻)が暗殺され大きなショックを受けていたパク・クネに接近し、呪術的に操ったことだ(以前のコラム『KCIA 南山の部長たち』参照)。この関係性がテミンの娘チェ・スンシルにも受け継がれ、国を揺るがすスキャンダルに発展し、パク・クネは大統領を罷免されるという、韓国史上初の大事件につながったのだ。

 そう考えると、本作のキム・ジェソクはさまざまなエセ教祖たちを組み合わせたキャラクターであり、ある意味では、韓国エセ宗教の縮図といえるだろう。とりわけ、成仏の境地に至り「老いない身体」を得たという設定は、消えては現れる韓国の新興宗教そのものに対するメタファーかもしれない。

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