[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

『イカゲーム』のイ・ジョンジェ主演! エセ宗教問題を扱ったオカルト・ミステリー『サバハ』に見る韓国人の宗教的心性

2021/10/29 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『サバハ』 “「社会奉仕」を利用した宗教家”で思い出される、あの政治スキャンダルの黒幕

 映画によるとキム・ジェソクは「1899年生まれで、成仏の境地に至り、朝鮮総督府の総督さえも師として崇めた。一方で独立運動の支援など抗日活動もした」人物である。この設定から連想されるのは、植民地時代の新興宗教「普天教(ポチョンギョ)」だ。西学(キリスト教)に対抗して生まれた東学(仏教・儒教・民間信仰を融合させたもの)に、道教の教理を混ぜ合わせた「甑山教(チュンサンギョ)」の一派として1921年に創始されたもので、教祖は1880年生まれのチャ・ギョンソクである。

 信者が急増し教団が大きくなった1926年には、当時の朝鮮総督府の斎藤実総督が教団本部にチャ・ギョンソクを訪ねたという逸話もある。大韓民国臨時政府(上海臨時政府)設立に資金を提供するなど、ひそかに独立運動の支援活動もしたのだが、教祖の神格化や信者に対する財産寄付の強制などが批判され、36年に同教団の存在に危機感を抱いていた総督府により解体された。

 物語上のキム・ジェソクの「朝鮮総督との関わり」や「独立運動の支援」といった設定は、まさに普天教の教祖チャ・ギョンソクから借りているのだ。

 映画のキム・ジェソクは、戦後(独立後)「日本に奪われた文化財や国有財産を取り戻したが、政局が不安定になると宗教界に私財を投じ、勢力を拡大させ、東方教を創始。社会奉仕活動をした」とある。韓国が正式に日本から文化財を取り戻すようになるのは、65年の日韓基本条約で「日韓文化財及び文化協力協定」が成立してからであり、66年に初めて仏像や陶磁器など1300を超える文化財が返還された。

 文化財の返還に力を注いだというくだりは、キム・ジェソクの歩みが少なくとも東方教という新興宗教を創始する前までは、成仏の境地に至った師として尊敬に値するものであったことを示しており、またその後「突然消えた」キム・ジェソクのミステリーの効果的な前置きとなっている。だが私が引っ掛かったのは、「社会奉仕活動」の部分である。

 「似而非」が自らの怪しさを隠すために「社会奉仕活動」を建前とするのはよくある手法で、ここから思い浮かぶのは「チェ・テミン」である。パク・クネ政権の失脚をもたらした「お友達国政介入スキャンダル」で脚光を浴びた元大統領の親友チェ・スンシルの父であり、長い間パク元大統領との内縁関係を疑われてきた人物である。

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