『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』男親の正論と女親の意地「奇跡の夏に輝いて ~ピュアにダンス 待寺家の18年~」

2021/10/25 18:30
石徹白未亜(ライター)

男親の正論と、女親の意地

 優の両親、高志と幸は優の人生の方針において意見が対立していた。まとめると、それぞれの意見は以下のようになる。

高志:親はいずれ先に死ぬ。優が一人で生きていけるよう、ダンス以外のことをさせて自立の準備をさせてはどうか。
幸:優にできる限りダンスをさせてやりたい。優のことを周りに、社会に、福祉に伝えていかないといけない。

 高志は、幸の抱く「伝えていかないと」との思いについて、それは優のためではなく「自分のため」なのではないか、と話していた。視聴している私もそう思ったし、高志の言い分のほうが納得できるものだった。

 一方、幸は意地を張っているようにも見えたが、しかし意地を張る気持ちも想像できるのが切ない。

 高志はいい父親だと思う。優が皿洗いを始めると、それを監督するなど行動が伴う人でもある。番組スタッフのインタビューには言葉少なげな優も、高志がカメラを向けているときは、にこやかにリラックスして話していて、父と息子の間に積み重ねられた日々を感じさせた。

 しかし、実際的に優と一番長く一緒に過ごし、優の世話を一番しているのは幸だろうし、幸が「あなたに何がわかる(私が一番わかっている)」となる気持ちも想像できるのだ。

 この様子には覚えがあった。『ザ・ノンフィクション』10月3日放送の「母と息子のやさしいごはん」だ。そのときも、障害(この時は発達障害)を持つ成人した息子の今後を前にして、父の正論と母の意地がぶつかり合い、結果として「母の意地が勝る」という状況だった。

 今回の高志は、「一言いうと機関銃のようにぶわーと言うから、諦めちゃう」と話し、「やさしいごはん」の回も、女親のマシンガントークを前に男親は何も言えなくなっていた。

新品本/ダンスチームラブジャンクス ダウン症のある子たちと共に 牧野アンナ/〔著〕
マシンガントークは心を無にして流すとよし
アクセスランキング