老いゆく親と、どう向き合う?

仲良し姉妹の関係は簡単に変わった……認知症の母について「妹とは気持ちが通じ合ってる」と思っていたが

2021/10/10 18:00
坂口鈴香(ライター)

住むところを失ってしまうかもしれない

 ところが相談した司法書士の言葉で、路子さんは再び由美さんとの関係を考え直すことになった。

「今、妹との関係に不安を感じているのだとしたら、妹と一緒に任意後見人になるのはやめておいた方がいいと言われたんです。考えてみれば、確かにその通りかもしれないと思いました」

 もちろん、今後由美さんとの関係が良くなるのなら杞憂で済むだろう。でも、関係が改善しなかったとしたら――土地や家のことで、由美さんと意見が合わず、争う可能性も出てくる。そんなことまで想像して、路子さんはゾッとした。

「母の介護費用を捻出するのに、土地を売らなければならなくなるかもしれないし、悪くすれば私たち家族が住むところを失うことにもなりかねません。それだけは、どうしても避けたい」

 路子さんは司法書士の意見に従って、もう一人の任意後見人として路子さんの長男を選ぶことにした。といっても、選んだのは母親ということにはなっているのだが。

 任意後見契約をするとき、由美さんが欠席すると厄介だと路子さんは不安だったが、幸い同席はしてくれた。

「ものすごく機嫌が悪かったですが。そりゃ当然ですよね」

 そして意外なことに、路子さんと路子さんの長男が任意後見人になることにも反対しなかったという。

「あっさりと同意したので、私たちも拍子抜けしたほどでした。反対されたら司法書士の先生に説得してもらうよう準備もしていたんですが。たぶん、妹は面倒なことはしたくなかったんだと思います。緻密な金銭管理とか、アバウトな妹が一番苦手なことですから」

 ホッとしつつも、これから先のことを考えると、同じ屋根の下で暮らす由美さんとどんな問題が起きるのかわからない。「不安がなくなることはない」と路子さんはつぶやいた。

 まさに、きょうだいは他人のはじまり――。

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/10/10 18:00
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