『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』44歳で始まった終活「人生の終わりの過ごし方 ~『ダメ人間マエダ』の終活~ 前編」

2021/09/13 16:47
石徹白未亜(ライター)
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月12日の放送は「人生の終わりの過ごし方 ~「ダメ人間マエダ」の終活~ 前編」。

あらすじ

 44歳のパチスロライター、マエダは2020年2月に余命宣告を受ける。過去に手術した口腔がんが全身に転移してしまったためだ。医師から告げられた余命は3カ月から持って半年で、通院は続けているが、それは治すためのものではなく、痛みを緩和するものとなった。

 マエダは都心の裕福な家庭の一人息子として生まれ、幼稚園からエリート街道を歩むものの、同級生の中でただ一人大学に進学せずギャンブルにのめり込み職を転々としてきた。現在はバツ2で、実家で母と2人で暮らす。

 元妻たちとの間には3人の子どももいるが、自分は死んだものと子どもに伝えてほしいと別れたため、いまさら子どもたちに会えないという。

 マエダの今は亡き父親は東大卒のエリート官僚で、その後、起業しても成功したやり手だ。マエダは父親が56歳の時の子どもで、父親のことは社会人として尊敬しているが、人として、父親としては尊敬していない、と複雑な思いを話す。母親は、マエダの写真は幼少期から笑顔のものがほとんどないと振り返る。

 一方で、父親もギャンブル好きだったようで、まだ幼いマエダをパチスロに連れて行っていたという。職を転々としてきたマエダがパチスロライターという天職に出会えたのは30代半ば。記事の執筆だけでなく、スーツ姿をトレードマークに番組やDVDにも出演し、仕事仲間とも良好な関係を築けていた中での突然の余命宣告。

 マエダは痛む体を抱え、大量の薬を飲む中でも酒もタバコもやめず、仕事仲間たちと一緒にうまいものを食べ、行きたいところへ旅に出る。一方、体調が悪いときは起き上がることもできない状態が続き、横になりながら「『お前の体は朽ち果てるんだよ』っていう、朽ち果てるところに向かっている感じ」と話し、その状況に対して「すごい嫌」「あらがいたい、でも無理」「怖い」と思いを話す。

 20年6月には新型コロナウイルスにも感染したが、回復後9月には沖縄へ旅に出る。旅行中も体の痛みで起き上がれない日もあったものの、小康状態のときにビーチへ足を運び、ビールとタコライスを堪能する。番組最後のナレーションではこれがマエダの最後の旅行だったと伝えられていた。

人に恵まれた終活

 気の置けない人たちとうまいものを食べ、酒を飲み、行きたいところに行って楽しく過ごす、というマエダの姿は「終活かくありたい」という一つの姿だったと思う。しかし、「気の置けない人たちと」のハードルはかなり高い。

 実際、高齢者でこれができている人はどのくらいいるのだろう。強制的に人と会う「仕事」や「子どもがらみの付き合い」などの環境を離れると、人づきあいはマメさが必要になってくる。「孤立する高齢者」は何も人嫌いな人に限らず、人づきあいの細かなメンテナンスがだんだん面倒になっていった人も少なくないだろう。

 マエダの終活が人に恵まれていたのは二つ理由があるように思う。一つは自分の余命をあっけらかんと伝え、快気祝いを自分で企画してしまうマエダの人柄だ。マエダの友人はマエダのことを寂しがりだと話していた。「寂しさ」はこじらせると厄介な感情だが、マエダの寂しさの表現方法は「だから人に会いたい」という素直なもので、愛嬌を感じる。

 マエダは父親に対しては複雑な思いを抱えており、また元妻や子どもたちに対しては連絡も取っていない状況のようだったが、友人に対してはむしろ積極的に関係を持ちたがる印象を受けた。

 もちろん全員が全員そうではないが、友人との関係に対し積極的な人の中には「家族仲に複雑なものがある(だから友人関係をすごく大切にする)」のだろうな、という人をたまに見かける。安心できる場を求めているのだろう。

もしもに備える安心ノート
雑誌もテレビも終活テーマが増えてるね
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