[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『シュリ』『JSA』 から『白頭山大噴火』まで! 映画から南北関係の変化を見る

2021/08/27 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし、作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『白頭山大噴火』

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 2010年、韓国では「近く白頭山(ペクトゥサン)が大噴火する!」というウワサをメディアが騒ぎ立て、国民を不安と恐怖に陥れたことがあった。結果的には現在まで噴火は起こっていないのでただのウワサにすぎなかったのだが、かといってまったく根拠がないわけでもなかった。当時、大噴火の可能性をめぐって韓国や北朝鮮、中国の間で共同研究の動きがあり、シンポジウムなども頻繁に開かれていたからだ。 
 
 朝鮮半島一の標高2744mを誇る白頭山は、北朝鮮北部の咸鏡道(ハムギョンド)と中国東北部・吉林省の国境にまたがっている。建国神話として知られる「檀君神話」(神と、人間の女性になった熊が結ばれ、2人の子どもが古朝鮮を開いたという神話)の舞台であることから、朝鮮民族発祥の地とされ、また半島の山々はすべて白頭山から始まったとするいわゆる「祖宗山」でもあり、それゆえ古くから民族の霊山として信仰されてきた。

 南北それぞれの国歌にも登場し、とりわけ北朝鮮では金日成(キム・イルソン)の直系家族を「白頭血統」と呼び、金氏一家の神格化に利用している。いずれにせよ朝鮮半島において白頭山は、朝鮮民族の原点を象徴する超自然的な存在なのだ。 
 
 このように日本での富士山のような存在感を持つ白頭山だが、10年にはちょうどアイスランドで火山の連続噴火が発生し、ヨーロッパの航空運航に大混乱をもたらしたことも、白頭山への注目が一気に高まった一因となった。だが北朝鮮には火山や地震の専門家はおろか、測定に必要な設備すらなく、韓国は勝手に手が出せないため、韓国側は中国からの情報提供に頼るしかない中で、中国からは「数年以内に火山性地震再活発化の可能性」という情報がもたらされた。 
 
 こうして一部の韓国メディアが「14年ごろ火山爆発?」といった刺激的な見出しをつけてほぼ確実な情報として大げさに報道したというわけだ。結果、メディアが無責任に「大噴火」と騒ぎ立てたことが判明して大バッシングとなって終わったが、ある与党議員は「北朝鮮の核実験のせいで白頭山の大噴火が近づいている」と主張、噴火までをも「反共」に利用しようとした旧態依然な発想は国民をあきれさせたものだ。 
 
 今回取り上げるのは、こういった一連の騒ぎを背景に作られた『白頭山大噴火』(イ・へジュン監督、19)である。もし本当に大噴火が起きれば朝鮮半島は破滅を免れないと想定し、それを防ぐために命を懸けて共闘する南北を描いたパニック映画である。

 思えば韓国ではこの20年ほどの間に、何らかの「問題」を解決するために南北が力を合わせて立ち向かうといった映画が何本も作られてきた。軍事独裁の終焉とともに台頭した「同一民族主義」が根底にあるそれらの映画には、南北関係に対する韓国の思惑が少なからず反映されているといえる。

 そこで本稿では、韓国映画史を振り返りながら、反共から始まり、時代や政権の移り変わりによって共闘へと変化していく、“映画から見える南北関係の変化”をたどってみたい。 
 

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