[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

自社の不正を暴く“高卒女子”の活躍を描いた韓国映画『サムジンカンパニー1995』、より深く理解する4つのポイント

2021/07/16 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『サムジンカンパニー1995』新韓国とサムスンがけん引した、「英語フィーバー」

 生まれ変わった民主国家・韓国のグローバル化と、それゆえの英語フィーバーについては先述の通りだが、その決定打となったのが、韓国トップの財閥企業である「サムスン」が「入社試験にTOEICを導入する」と発表したことだった。もちろんそれ以前もどの会社にも英語の入社試験はあったが、あくまで文法と読解を中心とした学校の英語教育の延長であり、実用性は完全に無視されていた。ところが韓国の若者なら誰もが憧れる大企業のサムスンが、当時実用英語の代名詞であったTOEICを電撃的に導入、このことが韓国の就職活動に大変革をもたらしたのである。

 ほとんどの会社がサムスンに追随したのは言うまでもない。街には雨後のたけのこのように英語専門塾が増殖し、本作のように社内にTOEICクラスを設けて人事に反映する会社も現れた。大学の風景もガラリと変わった。キャンパスのあちこちで「TOEIC特別講座」が開講され、就活生たちは専攻を後回し、「独裁打倒」や「ヤンキーゴーホーム」といったデモ運動はどこへやら、机にかじりついて必死で英語を勉強した。兵役中に詩人の夢をあきらめ、再び社会に戻って来た私も、大学4年だった95年には必死にTOEIC塾や特別講座に通っていたのをよく覚えている。

 600点以上の成績がなければ志願すらできない会社も多く、英語が人生を決めてしまうといっても過言ではなかった。英語熱は子どもたちにも波及し、ネイティブに近い発音ができるというウワサにあおられて、我が子の「舌のつなぎ目」を切る手術が流行する事態にまで発展した。このような、英語力を基準に個人の能力を判断するという流れは今も健在であり、高卒であるために最初から昇進の道が閉ざされたジャヨンたちがTOEICに夢を託す姿は、今でも十分に共感を呼ぶ。本作の原題が『삼진그룹 영어토익반(サムジングループ英語TOEIC班)』であることからも、映画での高卒女性社員たちの活躍ぶりが、英語学習と強く結びついているとわかるだろう。

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