[サイジョの本棚]

誰も信用できない不安と、家族から受ける屈辱――認知症患者の日常を追体験できる村井理子『全員悪人』の悲しさ

2021/06/12 16:30
保田夏子

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

『全員悪人』(著・村井理子、CCCメディアハウス)

『全員悪人』(CCCメディアハウス))


【概要】

 何年も疎遠だった兄の突然の死と、兄の元妻・甥と共に “後始末”に駆け回った日々をつづったエッセイ『兄の終い』(CCCメディアハウス)。同作が大きな反響を呼んだ、翻訳家・エッセイストの村井理子による作品。知らない女性が毎日自宅に上がり込み、何十年も担ってきた家事を取り上げられ、処方された覚えのない薬を飲まされ、夫はロボットになってしまった……。認知症を患った女性視点で、老いや認知症と正面から向き合った物語。

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 『全員悪人』の主題は、誰の身にも起こり得る「老いによる介護」や「認知症」。同様のテーマを扱った小説やエッセイの多くは介護者の視点から描かれているが、本作は全編通して介護を受ける認知症患者の一人称視点でつづられる。記憶があやふやになり誰も信頼できない恐怖や、愛する家族に話を聞いてもらえず、どこかバカにされているような屈辱感――。認知症患者にとって、日常生活は本当に「全員悪人」に見えるのかもしれない、そんな患者の混乱を疑似体験できる。

「私が何度も同じことを言うだとか、何度も同じ失敗をするだとか、まるで私が認知症患者のように周りは言う。まるで責められているようだ。だから、何をするにも自信がない。何をやっても不安になる。それが怖くて仕方がない」(第二章 パパゴンは悪人――師走)

 本作の「私」は80歳。学生時代は成績優秀で卒業後は銀行に勤め、結婚後は家事育児を一手に引き受けながら華道師範として多数の生徒を抱える、アクティブな半生を送った女性だ。一人息子は結婚し、孫も生まれ、60年連れ添った夫とのどかな晩年を迎えるはずだったが、「あなた」(=義理の娘)と「ケアマネ」と呼ばれる女性が「この家を乗っ取ろうとしている」ことに気づく……。

 認知症により昔の記憶と現在がうまく接続されない主人公にとって、代わる代わる自宅を訪れ家事をしてくれる訪問介護ヘルパーは、台所を奪う「知らない女」であり、自宅の金品を盗んでいく悪人だ。週2回のデイサービスセンター通いを強制する「あなた」や「ケアマネ」も、若い女性スタッフに愛想よく接して自分には嘘をつく夫も、身に覚えのない行動について質問してくる白衣の女も、彼女の世界では“全員悪人”だ。義理の娘との掛け合いなどテンポよく時にコミカルでもあるが、記憶の飛び地に立たされて右往左往する主人公は基本的に孤独で、何もかも信用しにくい不穏な世界を生きている。

全員悪人
介護に携わる方は必読

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