居住支援の現場から【4】

父親の暴力を見続けた息子は「すごく良い子」だったのに……「僕には選択肢がなかった」告白に、悩むシングルマザーの告白

2021/05/23 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

 若宮由里子さん(仮名・53)の長男、祐樹さん(仮名・29)はオンラインゲームに没頭し大学を中退、仕事も長続きしなかった。途方に暮れていたときに、居住支援法人「LANS(ランズ=ライフ・アシスト・ネットワーク・サービス)」の浅井和幸さんと出会い、次第に心を開いてシェアハウスに入居。その後もいくつかの挫折を経てようやく仕事に就くことができた。たまっていたシェアハウスの家賃も返済し、若宮さんは一安心したところだ。

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「僕には選択肢がなかった」母親が生き方を選んできたのか?

 それにしても、祐樹さんの“反乱”は何だったのか――。若宮さんは、「祐樹は、とにかく小さい頃からすごく良い子でした」という。

「私は気が強くて、こんな母親から何でこんな良い子が生まれたんだろうと皆が不思議がるくらいでした。ただ、祐樹の引きこもり状態が発覚して、ペットボトルが山積みの部屋で話したとき、『僕には、選択肢がなかったよね』と言ったんです」

 選択肢――? 若宮さんは、祐樹さんの言葉に驚いた。思い当たるフシなどなかったからだ。

「祐樹は、大学を決めたのも、仕事を決めたのも私だと言いますが、そんなことをしたつもりなんてまったくありません」

 でもそう言われれば、私大に落ちたときに、「国立大しかないよね」と言ったこと、「大学に行かないのなら仕事をしてみたら」と仕事を紹介したのも、確かに若宮さんだ。それが、祐樹さんの意思ではなく、若宮さんの意思だったと言われると、「この子はそう受け取っていたのか」と思わざるを得ない。

 次男は自分の意思をはっきり言う子だったので、なんでも先に「僕はこれ」と選んだ。祐樹さんは「残された方を選ぶしかなかった」と言われれば、返す言葉もない。それだって、祐樹さんが「僕は何でもいいよ」と言ったからだった――。

息子が友達に話した「パパはアメリカに行った」というウソ

 若宮さんの言葉に、夫との離婚が祐樹さんに影響していると思うか、聞いてみた。若宮さんが夫と離婚したのは、夫のDVが原因だった。祐樹さんは幼いころから、父親が母親に暴力を振るう姿を見ていたのではなかったのか。

「祐樹ははっきり覚えていないかもしれませんが、感覚として父親が母親をいじめていたという認識はありました。なので、私の前で父親の話をしてはいけないと思っていたのか、次男がどうして父親がいないのか私に聞いてきても、話には参加せずに、知りたくもないという態度を取っていました」

 幼稚園時代には、友達に「パパはアメリカに行った」と話していたという。祐樹さんは、父親のことを悪く言いたくない気持ちもあったようで、若宮さんは自分たちのわがままで離婚し、子どもたちの父親の存在をなくしてしまったことに申し訳ない気持ちを持っていたという。

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