『おちょやん』解説

『おちょやん』成田凌演じる一平、執筆スランプで“盗作”!? 実は「全然自分で書いてない」“名脚本家”のガッカリすぎる史実

2021/05/08 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。ヒロインの千代は、喜劇女優の浪花千栄子さんをモデルとしていて、夫の天海一平も劇作家の渋谷天外が元となっています。そんなドラマの登場人物の“本当の話”を、『あたらしい「源氏物語」の教科書』(イースト・プレス)などの著作を持つ歴史エッセイストの堀江宏樹氏が解説!

 『おちょやん』の第20週「何でうちやあれへんの?」では、天海一平(成田凌さん)が、劇団の新人女優・朝日奈灯子(小西はるさん)とデキてしまった理由として、脚本家としてスランプに陥っていたことが挙げられました。

 史実でも、一平のモデルである渋谷天外が浪花千栄子(ヒロイン・千代のモデル)と離婚、九重京子こと喜久恵を新しい妻にしようと思った理由は「よい本が書きたいから」というものでした。九重の手記『思い出の記』(主婦の友社『渋谷天外伝』内)の言葉を引用すると、「浪花千恵子という女優と結婚していると、家庭にやすらぎもなく、脚本の執筆もうまくいかない」と渋谷は九重に訴えたそうです。

 これらの一見、身勝手とも思える言葉を、浪花千栄子という上昇志向の強い女優への「あてつけ」だったと解釈して前回はお話しました。しかし……実は重大な秘密が隠されている可能性もあるのです。

 渋谷天外は勝ち気な人ですから、スランプだったことを自伝などでは認めていません。しかし、すでに彼は脚本の執筆作業に行き詰まり、苦しんでいたのかもしれない。そして、その“巻き添え”を食らったのが、浪花千栄子だったのかも……というのが、今回のテーマです。実際、渋谷には後に大問題となった「盗作疑惑」が起きていますからね。

脚本執筆のやり方は、かなり異様

 喜久恵は、40代で初めてパパになった渋谷の意気込みあふれる言葉を書き残しています。

「私(=喜久恵)が妊娠したことを知らせると生まれてくる子供のためにいい仕事を残して置きたい。子供が大きくなって『おやじ、つまらん本を書いていたのかと思われたくないからな。お前も子供のためにがんばってくれ』と(渋谷は)言った。四十歳を過ぎて初めて我が子の顔が見られることを、とても喜んでいた」(『思い出の記』)

 さかんにアピールされている渋谷天外の創作への熱い思いですが、実際のところはどうだったのでしょう。関係者の証言から見る限り、一平のモデルである渋谷天外の脚本執筆スタイルは、かなり異様なものでした。

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