高橋ユキ【悪女の履歴書】

内縁の夫が「新たなる妻を迎えようとした」……傍聴に人々が殺到した、殺害未遂の女医の告白【神戸毒まんじゅう殺人事件:前編】

2021/05/03 19:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

貢がせるだけ貢がせて、新しい女と結婚するつもりなのか?

「佐藤へ送金するため女ひとりが夜道を3回も往復して5円作ったり、弟からタバコ代50銭を無心されるのも断り、時には兄の金を無断で借りて送金したこともあった」(神戸地裁での花子の証言)

 やがて義男への送金のため、花子は勤務していた病院を辞め、郷里に戻って開業した。

「1〜2年開業して月々学費を送れば、橋本も何か内職を探すとのことでした。兄には橋本が学校を出たばかりだから、私がついていては研究の邪魔になるから帰って来たといって開業した」(同)

 義男が学位を取得すれば晴れて同棲が叶う。いずれは結婚し、二人で共に人生を歩んでゆく……そう信じて花子は援助を続けていた。そしてようやくその日が来た。

 36(昭和11)年5月、義男は見事学位を取ったのだ。しかし、花子との同棲話は一向に進展する気配がなかった。それどころか、義男には新しい女性を探すそぶりすら見られるようになったのだ。

「橋本は、計画的に学費を出させるために私と結婚し、単位を取った上で、また新しい結婚をする気であったように思います」

 花子は証言台の前で、当時の義男の思いをこう推測する。当時、花子はこのように抱いた疑念を燃料に、徐々に恨みを募らせていた。貢がせるだけ貢がせて、学位を得たら古草履のように捨てられるだけなのか……。

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