居住支援の現場から

ずっと良い子だった優秀な息子が――「大量のゴミが散乱する真っ暗な部屋」で見た、信じられない光景

2021/04/11 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

 前回、高齢者やネットカフェ難民、母子家庭、DV被害者など、住まいを失いそうな人や失った人からの相談を受け、住まいを紹介したり、管理しているシェアハウスを貸したりするほか、生活の支援などの取り組みをしている茨城県つくば市の居住支援法人「LANS」代表理事、浅井和幸さんに話をうかがった。

 その浅井さんに「救われた」という女性がいる。若宮由里子さん(仮名・53)だ。若宮さんはシングルマザー。長男の祐樹さん(仮名・29)が3歳、次男が1歳のとき、夫のDVが原因で離婚、以来、女手ひとつで息子たちを育ててきた。

ずっと良い子だった長男

 次男は自由奔放に育った。「奔放すぎて、高校時代にはいろいろと問題を起こして学校から呼び出されることもしょっちゅうでした」と若宮さんは振り返るが、無事社会人になり若宮さんの手元を離れた。

 対照的に長男の祐樹さんはずっと“良い子”だった。次男が「うちにはなんでお父さんがいないの?」と聞いても、自分は興味ないふりをして、若宮さんを困らせないようにするような子どもだった。反抗期もなかったという。成績もよく、希望した私大には行けなかったものの、地元の国立大には授業料を免除されるほど優秀な成績で合格した。

 祐樹さんは、大学近くの若宮さんの実家から大学に通うことになった。実家には若宮さんの実母、ミヨ子さん(仮名・78)が一人で暮らしていた。ミヨ子さんは脊髄小脳変性症という病気で、少し体が動きにくくなっていた。当時は家事には支障がない程度だったものの、徐々に進行していくことが予想された。そういう事情もあって、祐樹さんが一緒に暮らしてくれるなら、若宮さんもミヨ子さんも安心だと喜んでいたのだった。

真っ暗な部屋で見たもの

 祐樹さんがミヨ子さんと暮らして2年が過ぎたころ、ミヨ子さんから若宮さんに連絡が来た。

「最近、祐樹が食事時にも部屋から出てこない」

 ミヨ子さんは、2階にある祐樹さんの部屋まで様子を見に行くことができなかったため、若宮さんが実家に駆け付けると、祐樹さんの部屋には信じられない光景が広がっていた。

「部屋は真っ暗で、大量のゴミが散乱していました。祐樹はご飯も食べず、お風呂にも入らずに昼夜オンラインゲームをし続けていたんです。当然、大学にも行っていませんでした」

 そういえば……若宮さんには思い当たることがあった。祐樹さんが3年になったとき、大学から授業料を払うようにという通知が来ていたのだ。

「授業料は免除だったはずなのにと思って、祐樹に問いただすと、申請書を出し忘れたと言うんです。それで書類をそろえて出したのに、また払えと言ってくる。祐樹の大学は子どもの成績も親に通知しないし、授業に出席していないという連絡も来ないんです。それで大学の担任に問い合わせると『実は、進級できていない』というんです」

 結局、祐樹さんは退学こそしなかったものの、再び学校に通うことはなく、2年留年した。授業料は、祐樹さんが2年生まで働いてためたバイト代で払っていた。若宮さんが、大学にも行かず、ゲームも辞めない祐樹さんに業を煮やして「これからどうするつもり? 大学に行かないなら、辞めて専門学校に行けば?」と言っても、祐樹さんはゲームを中断することもなく、のらりくらりとかわし続けた。

――続きは4月25日

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/04/11 18:00
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