白央篤司の「食本書評」

東京育ちが「酒」を軸として大阪を知っていく、『関西酒場のろのろ日記』の豊かな世界

2021/04/10 17:00
白央篤司

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『関西酒場のろのろ日記』スズキナオ 著

『関西酒場のろのろ日記』(Pヴァイン、2020年10月30日発行)1,800円(税別)

 酒場の楽しみ方も人によってさまざまだろうが、私は常連らしき人たちが楽しそうに飲んでいるのを感じつつ、一杯やるのが好きだ。ああ、この店が好きなんだな、飲む、食べるだけじゃなく「ここにいたい」から来てるんだな、というのが感じられると妙にうれしくなる。

 そういう客が付いてる店には独特の空気がある。「ごく普通のウーロンハイだけど、ここで飲むとなんかいいんだ」とか、「ここのカウンターでひと息ついてからじゃないと、一日を終えられない」なんて客それぞれ思いや念のようなものが、店の壁や床に染み込んで、何かを醸しているのかもしれない。

 『関西酒場のろのろ日記』という本は、私には一軒の酒場のように思えた。著者が店主であり同時にお客で、自分の好きな店でいつもニコニコと飲んでいるかのような。読んでいる私もその近くで黙って飲みつつ、店の雰囲気を味わって幸せな気持ちになる――そんな本だった。

 著者のスズキナオさんは、2014年の夏に東京から大阪に越されたとまえがきにある。30代半ばまでずっと東京で育ち、「土地勘もなく、知り合いもほとんどいなかった」彼が、「おそるおそる(関西の酒場文化に)近づいていく過程がそのままあらわれたようなもの」が本書だ。

 「割と暇な本屋の店番」という仕事を得て、そこの店長さんに飲みに連れていってもらうのが第1章のはじまり(このロケーションが中津というのがまた絶妙!)。そしてライターとして、週刊誌で関西の居酒屋を紹介するようになる。酒を軸として、だんだんと大阪というまちを肌で知っていくスズキさん。

 天満や京橋の飲み屋街に圧倒されるくだりはひたすらに共感した。スズキさんの言い方を借りれば「酒めぐりに終わりが見えない」「気になる店が多すぎて手に負えない」あの密集した深い感じ。

 関西の酒場というと、ノリが良くて強烈なキャラクターの主人やお客さんを想像されるかもしれない。実際そういう人も出てくる。サソリのから揚げを出すお店もあれば、「歩くのにちょっと緊張する」エリアも登場する。けれどスズキさんは、決してそれらを好奇の目で見つめない。淡々と「こんなことがあった」と綴っていく。ことさらに非日常を煽って見せるようなことは決してしない。それが、とてもよかった。

関西酒場のろのろ日記
コロナさえなければ! すぐ飲みいきたい!

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