居住支援法人LANSインタビュー

コロナ禍で生活に困窮する人に、私たちは何ができるのか? 支援者が「『見ない』という選択肢もある」と話すワケ

2021/03/28 18:00
坂口鈴香(ライター)

相手も、善意を受け入れるにもキャパシティがある

 周囲に苦しんでいる人がいて、自分も少しでもその人の力になりたいと考えている人もいると思います。苦しんでいる人がいたら、まず声をかけてみてください。それで何もできることがないようなら、市区町村に困窮者の相談窓口があるので、そこに相談することを勧めましょう。

 困窮している人と深く関わろうとするには、覚悟も必要です。ボランティアだからと軽い気持ちで関わっておいて、それ以上の成果を求める人も少なくありません。「私がこんなに一生懸命にやっているのに」と相手を責めてしまうと、互いにイヤな気持ちになります。

 ちょっと関わっただけで、困窮した人が豊かになるわけではありません。泣いた人が笑うわけでもないのです。相手に過重に期待することなく、「できる範囲で、できるところまでやる」と決めれば、それによって感じる喜びも変わってきます。

 相手にも、善意の全てを受け入れたくても受け入れるキャパシティがあるのです。善意を受け入れてもらえないと思ってしまうと、相手を追いつめてしまうことになります。すると、相手は自分を責めるのです。

誰かを責めると誰かを苦しめる

 こちらが何かやろうとしても、どうにもならないこともある、というのも現実です。私たちには、それを「見ない」という選択肢もあります。世の中に、不幸なことは数えきれないくらい起こっています。だから、自分が抱えきれない苦しみは抱えないことです。自分の力でどうにかできるというのは、自分を過信しているということ。神ではないのだから、それはできないのです。

 つらく、悲しい報道はあふれているので、それに怒り、誰かを叩くこともできます。しかしそうすると、今度はそれが誰かを苦しめることにもなる。世の中のせい、親のせい……誰かのせいにするのは簡単です。人を責めないということには、大きな覚悟が必要なのです。

 誰かの苦しさを増やすくらいなら、褒めたり、ささいな支援をしたりすることを増やしましょう。そうすれば、トータルとして小さな幸せが増えていくはずです。

 そして、最後に、誤解を恐れずに言わせてもらえば、人間には不幸になる権利もあると思うのです。人の失敗を奪えば、成長するチャンスも奪うことになる。だから、私たちにできることがあるとすれば、相手にメリットとデメリットを伝えること。どちらを選ぶかは本人なのです。本人がどちらを選ぼうと、私たちはそれを手伝えばよいのですから。

浅井和幸(あさい・かずゆき)
LANS代表理事。精神保健福祉士。 2018年に茨城県で初となる住宅要配慮者の居住支援を目的とした一般社団法人LANSを設立 。浅井心理相談室主宰。NPO若年者社会参加支援普及協会アストリンク理事長。自立援助ホームの副理事、障害者グループホームの理事も務める。

・居住支援法人「LANS」

全国の自立相談支援機関・相談窓口

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/04/05 11:20
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