『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』震災の取材に応じた過去が重荷になる『わすれない 僕らが歩んだ震災の10年<前編>』

2021/03/08 16:36
石徹白未亜(ライター)

10年後に自分がどんな気持ちか、大人でもわからない

 今、21歳となった哲也は、かつて取材を受けたことに後悔があったように見えた。苦悩している哲也を見ると、取材を受けないほうがよかったのかもしれない、と苦しくなった。幼い頃の哲也の映像は、当時の人たちを知ることができる貴重なものだと思うし、震災直後、週3〜4回も葬式や通夜が続いていたという話は壮絶だった。しかし、それで今の哲也が苦しいのなら、取材映像を残すことの必要性とは? と、考えさせられてしまった。

 まだまだ成長途上で、環境や人生が大きく変わっていく10代の子どもの気持ちは移ろっていくのが自然なことだと思う。当時最善を尽くした決断であっても、その気持ちは変わるものだと、自分自身の子ども時代を振り返っても思う。

 ましてや、哲也のした体験は「家族や友人を天災で喪う」という壮絶なものだ。大人であっても、このような経験をした際に、その思いを話したくない人だって大勢いるだろう。このような出来事への思いが、自分の中で1カ月後、半年後、1年後、10年後にどう変化していくかなど、わかりようもないことだと思う。

 今、新型コロナウイルスに対して、どういった決断や行動が果たして正解なのかわからないという難題が、社会に暮らす全員に降りかかっている。10年前、哲也は同じように「一つの正解がない難題」について向き合わざるを得なかった。

 当時は使命感で取材を受けた過去が、おそらく今、哲也の重荷になっているであろう。マイクやカメラを向けた大勢の人は今、どう思っているのだろう。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は今回の後編。哲也の10年間の歩みを見つめる。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2021/03/08 16:36
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