K-POPタテ・ヨコ・ナナメ斬り

TWICE、J.Y.Park作曲の「Switch to me」から繙く、K-POPブーム前夜90~00年代の“韓国製”NJS楽曲紹介

2021/03/03 19:00
e_e_li_c_a(ライター)

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。

今月の1曲:DAHYUN and CHAEYOUNG (TWICE) – 나로 바꾸자 Switch to me

 TWICEのメンバーが1人単位で、ほかのアーティストの曲をカバーする「Melody Project」という企画で発表された楽曲です。昨年大みそかにリリースされたRainとJ.Y.Parkの楽曲「나로 바꾸자 Switch to me」をダヒョンとチェヨンがカバーしました。原曲は、君には自分のほうが似合ってる、自分のほうが良い男だ、とRainとJ.Y.Parkが女性を取り合う曲です。ダヒョンとチェヨンのカバーは歌詞の性別が男から女に入れ替えられており、原曲よりも楽曲のテイストの90年代を意識したスタイリングになっています。

 J.Y.Parkは言わずもがなですが、2020年にRainはMBCの『遊ぶなら何する?』という番組の企画でユ・ジェソク、イ・ヒョリと共にSSAK3(サクスリー)という期間限定ユニットを結成し、90年代に主流だった夏のダンスミュージック楽曲をリバイバルするという趣旨で当時の曲をカバーしたり、新曲をリリースし、大ヒットしました。

 今までの連載を見てくださった方には聞いてわかる通り、「나로 바꾸자 Switch to me」はNJS(New Jack Swing)楽曲です。NJSについては一昨年、PENTAGONの「HAPPINESS」がリリースされた際に音楽的な面から解説しましたが、この記事では韓国にNJSが入ってきてから、2010年代までの間をかなり省いて書きました。

 またJ-Popに関しては、NJSの歴史に沿った読み物が探せば見つかりますが、日本語で韓国のNJSについて書いてある読み物があまり見つからなかったので、今回はNJSという切り口から、年代に沿ってアーティストや当時の韓国を取り巻く現状などを紹介していきたいと思います。以前の記事にも書いた、서태지와 아이들(ソテジワアイドゥル)と듀스(DEUX、デュース)については省いて、時系列順に紹介します。

90年代~00年代初頭の韓国のNJS楽曲

■이승철 (Lee Seung Chul) – 방황 (The Wandering、彷徨) (1992/11)

 イ・スンチョルは부활(復活)というバンドの2代目ボーカルとしてデビューし、アイドル級の人気を博します。イ・スンチョルがあまりに人気だったため、当時バンドの「復活」と言うより「イ・スンチョルのバンド」という認識を持っている人が多かったそうです。リーダーでプロデューサー兼作詞作曲家のキム・テウォンとの意見のすれ違いや彼の逮捕によりグループは解散し、1989年にイ・スンチョルはソロデビューします。

 この楽曲は作編曲を김홍순(キム・ホンスン)がやっており、後述するUptownの「다시 만나줘」(Back to me)にも彼の名前があります。

 ただこの曲は後に盗作疑惑がかけられ、作詞作曲の著作権者に関しては「無」という表記になります。Bobby Brownの「Humping Around」が原曲ではないかと言われていますが真相は闇の中です。94年にリリースされたアルバム『The Secret of Color』収録の「착각」(錯覚、勘違い)もNJSです。

 近年はMnetのオーディション番組『Super Star K』シリーズに審査員として出演したり、昨年35周年記念アルバムをリリースし、少女時代のテヨンとデュエットをしています。

■양준일 (Yang Joon-il) – Dance With Me 아가씨 (Dance With Me Lady) (1992/11)

 ヤン・ジュンイルの「Dance with me 아가씨」(アガシ、お嬢さん)です。この曲の収録されている2枚目のアルバム『나의 호기심을 잡은 그대 뒷모습』(僕の好奇心をつかんだ君の後ろ姿)に入っている「가나다라마바사」(Pass Word、カナダラマバサ)もNJSです。

 ヤン・ジュンイルは韓国系アメリカ人で、91年に「리베카」(レベッカ)という曲でステージデビューします。しかし93年に、「レベッカ」が公演倫理委員会(※1)によって盗作曲と判定を受け、ビザの更新もうまくいかず、しばらく姿を消すこととなります。「レベッカ」はJanet Jacksonの「Miss You Much」を盗作した疑惑がかけられていたそうですが、公演倫理委員会の判定基準は当時の専門家の間でも議論があったそうです。

 引用元は「米国の歌、日本の歌、香港の歌」とだけ記載され、具体的な引用元が明示されておらず、保守的な委員会の人たちが彼の自由奔放な姿を気に入らなかったからでは、ともいわれています。

 長い髪の毛やダボッとした服装が、まだ保守的だった当時の韓国ではだらしなく見え、英語がふんだんに散りばめられた歌詞に聞き慣れないジャンルの楽曲は「新鮮で型破り」という評価を受けますが、大ヒットとまではなりませんでした。サビに英語を持ってきて、それを繰り返す手法というのは現代のK-Popの定石ともいえますが、韓国語があまり得意ではないヤン・ジュンイルのような人が本能的にそのような曲を作ってパフォーマンスしていたというのは、今考えるととても興味深いです。

 当時の姿が、顔も含めてG-Dragonに似ていることから、2018年頃ネット上で話題になり、19年に出演した『シュガーマン』(※2)で時代の最先端を行っていたと再評価されます。番組出演のための来韓だったので、すぐにアメリカに帰国しますが、番組放送後の反響は凄まじく、最終的に韓国に移住し音楽活動をすることになります。つい先日、2月22日にもEPがリリースされ、CDの売り上げなどもアイドルグループに引けを取らない、かなり良い成績を残しています。

※1:現在の「映像物等級委員会」にあたる組織で、映像物の倫理性及び公共性を確保して青少年を保護するための等級委員会。
※2:韓国歌謡界で一世を風靡するも、いつの間にか消えてしまった、いわゆる一発屋の歌手のヒット曲にスポットライトを当て、当時のエピソードを聞いたり、最前線で活動するアイドルが彼らの楽曲をカバーするという番組。

■김건모 (Kim Gun-Mo) – 버려진 시간 (Lost time、失われた時間) (1993/10)

 韓国歌謡界の伝説と言われるキム・ゴンモの2枚目のアルバム『김건모 2』(キムゴンモ2)収録曲です。キム・ゴンモの総アルバム売り上げ数は330万枚で、19年に入って防弾少年団に339万枚で破られるまで、彼がこのギネス記録をずっと保持していたことを考えると、どれだけすごいことかわかると思います。

 デビューアルバムのタイトル曲はソウルミュージックで、『김건모 2』(キムゴンモ2)のタイトル曲「핑계」(ピンゲ、言い訳)はレゲエのリズムを取り入れたり、「버려진 시간」(Lost time)ではNJSをやったり、ハウス曲「어떤 기다림」(Waiting For)があったりと、この時代にダンスミュージックをうまくポップスに取り入れているアーティストです。

 90年代前半のラップはどの曲もまだしゃべる延長という感じがしますが、彼のラップは頭ひとつ抜けている印象です。96年リリースのアルバム「Exchange kg. M4」収録の「악몽」(悪夢)もNJS寄りの楽曲です。

■김성재 (Kim Sung Jae) – 말하자면 (As I Told You、言わば) (1995/11)

 DEUXの片割れキム・ソンジェのソロデビュー曲「말하자면」(マルハジミョン、言ったとおり)です。キム・ソンジェは小学生の終わり頃から日本に住み、BAE173のナム・ドヒョンやm-floのVERBALが通ったセント・メリーズ・インターナショナルスクールや、ZICOが通った東京韓国学校に通っていたそうです。

 SBSの『생방송 TV 가요20』(生放送TV歌謡20)という、現在日曜日に放送している音楽番組『人気歌謡』の前身番組でソロデビューしますが、次の日の11月20日にホテルで死んでいるところをマネジャーが発見します。腕にはたくさんの注射の跡があり、遺体からは動物に使う麻酔薬が検出されたそうで、交際していた歯学部生の彼女が逮捕されますが、最終的には無罪になるなど未解決事件となります。この事件をモチーフにした『真実ゲーム』という映画も、00年に公開されています。

 16年にBTSがカバーしたことで知っている人もいるかもしれません。

■룰라 (Roo’Ra) – 3!4! (1996/06)

 DEUXのキム・ソンジェの相方、イ・ヒョンドがプロデュースしたルーラの4枚目のアルバムタイトル曲、「3!4!」です。グループ名は彼らのデビューアルバムのタイトルにもなった「Roots Of Reggae」から来ており、文字通りレゲエを軸に活動するというコンセプトでした。

 当初、男性3人でのデビューが企画されますが、当時大人気だったソテジワアイドゥルと同じ構成になるため、男女混合グループの男性3人・女性1人でデビューします。その後男性1人が兵役のため脱退し、女性ボーカルが1人入り、この映像と同じ男女2人ずつのグループとなります。

 デビュー時から人気があり、日に日に人気は増していきますが、3枚目のアルバムタイトル曲「천상유애」(天上遺愛)がジャニーズ事務所所属・忍者が歌った美空ひばりのカバー「お祭り忍者」の盗作疑惑が出ると一変、世間の目が厳しくなり、音楽番組等に出られなくなります。キム・ソンジェの葬儀場で距離の縮まったイ・ヒョンドとルーラのメンバーですが、この状況だったルーラのためにイ・ヒョンドが曲を提供し、それがこの「3!4!」でした。この4枚目のアルバムでルーラは人気を取り戻します。

 ルーラのあまりの人気に当時「꼬마 룰라」(ちびっ子ルーラ)が結成され、幼少期のG-Dragonがメンバーに選ばれ、これがYGエンタテインメントからスカウトされるきっかけになったそうです。

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