[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

EXO・D.O映画デビュー作『明日へ』から学ぶ、“闘うこと”の苦しみと喜び――「働き方」から見える社会問題

2021/02/19 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

闘うことの苦しみと喜び……『明日へ』から学べること

 『明日へ』は、韓国で「11月13日」に公開された。この日は、韓国における労働運動の歴史を象徴する運動家「チョン・テイル(全泰壹)」の命日である。彼は1970年、劣悪な労働環境の改善を訴える運動の中で軍事政権から弾圧を受け、抗議の焼身自殺を果たした人物だ。「労働者は機械ではない」と叫びながら散っていったチョン・テイルの精神は、その後の労働運動に大きな影響を与えたといわれている。

 命を落としたソウルの清渓川(チョンゲチョン)には、彼の銅像が立っており、その意志は今もなお多くの人に受け継がれているのだ。映画の最後で「私たちを透明人間扱いしないで」と叫ぶソニの姿には、チョン・テイルの精神がはっきりと見える。 
 
 強制排除に出た警察が無差別に放つ放水に向かって、「カート」を武器に突進するところで画面は静止し、闘いが現在進行形であることを暗示して映画は終わる。彼女たちがその闘いに勝利することは、もちろん簡単ではない。だが、諦めずに立ち向かい、その果てに己の権利や正しさを勝ち取って初めて、そのカートの中は幸せで埋め尽くされるのだろう。

 独裁政権を打破し、自分たちの手で民主化を勝ち取ることに成功した韓国人は、闘いの苦しみとその果ての喜びを知っている。私は日本人にも、闘うことの苦しみと喜びを味わってほしい、そう思うのだ。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2021/02/19 19:00
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