[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

EXO・D.O映画デビュー作『明日へ』から学ぶ、“闘うこと”の苦しみと喜び――「働き方」から見える社会問題

2021/02/19 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

非正規雇用の労働者は、なぜ「ストライキ」を起こしたのか?

<物語> 

 大手スーパー「ザ・マート」のレジ系として働くソニ(ヨム・ジョンア)は、真面目に業務をこなし、サービス残業も積極的に引き受けてきたおかげで、正社員への登用が約束され幸せいっぱいだった。ところがある日、彼女を含む非正規の女性労働者たちは、会社から一方的に解雇を通報される。ろくに説明もない会社の理不尽な態度に、シングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ)、清掃員のスルレ(キム・ヨンエ)らは憤り、団結して闘おうと労組を結成。ソニもリーダーの1人に抜てきされ、交渉を試みるも、会社側は彼女たちに向き合おうともしない。

 このままではらちが明かないと判断した彼女たちは、ストライキを敢行しスーパーの占拠に踏み切るが、「不法占拠」として警察から排除され、逆に会社から訴えられてしまう。仲間同士を分裂させようとする会社側のさまざまな妨害に遭いながら、人間としての尊厳を必死で守ろうとする女性たちだが、ギリギリの生活の中で、家族との関係にもひびが入ってしまう。果たしてソニらは「良き明日」を勝ち取ることができるだろうか? 

 先述したように、本作は2007年に大手スーパーチェーンのレジ系を担当する労働者たちが、会社の不当解雇に立ち向かい実際に起こしたストライキを再構成した映画作品。当初は1日で終わる予定だったそのストライキは結果、彼女たちが再びレジに戻るまで2年という歳月がかかる長い闘いになってしまった。だがそもそも、なぜ不当解雇がなされ、ストライキに至ったのだろうか? その背景を知るためには、1997年のIMF時代にまで遡らなければならない。 
 
 国家的な財政の立て直しに追われたIMF時代(詳しくは、当コラムの『国家が破産する日』を参照)、企業による大量のリストラが余儀なくされる中で、爆発的に増え始めたのが非正規労働者だった。そして同時に大きな問題となったのが、契約期間や賃金など、正社員に比べると圧倒的に不安定な非正規の雇用条件であり、そこから社会に深刻な格差が生まれていったことだ。

 当然、改善を求めるデモやストライキが韓国各地で盛んに行われ、その結果、IMFから10年がたった07年にようやく、非正規労働者への差別改善と社会の安定化を図った「非正規職保護法」が成立。その内容は、有期契約で2年以上働いた非正規労働者の正社員への転換、同一労働・同一賃金を実現し、正規と非正規の待遇差をなくそう、というものだ。 
 
 ただし、ここには盲点もあった。正社員への転換はあくまでも企業の努力義務であり、「経営上の理由」から転換が難しいと会社側が主張し、妥当であると判断されれば、そのまま非正規として雇い続けることもできるようにしたのだ。もう一つは、近年日本の「働き方改革」においても、無期契約への転換を前に雇い止めになる弊害が問題となっているが、韓国でも同様に、2年後の正社員への登用を盛り込んではいるものの、これを悪用して雇い止めにする事例が数多く発生した。

 本作の元になったストライキは、まさに法制定を前にして、直前に手を打とうとした会社側の横暴が原因となっている。法の成立とストライキが07年という同じ年に起こったのは、決して偶然ではないだろう。

 こうした背景があってストライキが起こったわけだが、当時は大きな問題として社会の注目を集めても、次第に人々の関心は遠のいていった。だが、当時の闘いを細部にわたって丁寧に再現した本作が公開されたことで、14年においてもいまだ問題が解決していない状況――ストライキの2年後、労働組合の執行部の復職放棄を条件に、労働者たちの職場復帰は果たしたが、全員の正社員転換が完了したのは18年である――を、再び韓国社会に喚起させたのである。

 映画によって、あらためて労働問題をめぐる現実を突きつけられた韓国では、公開後も、自動車工場の解雇労働者たちの復職運動や、高速道路料金所従業員たちの正社員登用をめぐるデモなどが盛んに行われてきた。とりわけ本作でも描かれたように、非正規労働者は男性に比べて女性が圧倒的に多い。ただでさえ男性を優先する社会構造が根深く、女性の声が社会に届きにくい韓国において、正規/非正規の問題のみならず、男女間の差別を明確にメッセージとして描いた本作の意義は大きいだろう。

ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器
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