高橋ユキ【悪女の履歴書】

「オレの正体をいま話して聞かせる」94歳オンナ詐欺師、最後の大ボラ! 商店街を主婦を巻き込む大脱走劇【岡山・高齢女性詐欺師:後編】

2021/01/30 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

疑いを晴らす“1億円の寄付”

 銭湯で出会ったAさんも、トミヨのために間借りする部屋を世話したのち「東京の土地を処分したいのだが親戚がうるさいので……」といったトミヨのいつものホラ話を信じてしまったひとりだ。「東京にいい土地がある。手つけを出しなさい」と持ちかけられたことを皮切りに、27回にわたり260万円をだまし取られてしまった。

 同じ手を使い、近所の主婦10人からも金をだまし取る。借用書には「返済の折には金百万円をつける」とあった。いかにも怪しい内容だが、トミヨの話術に丸め込まれ、一時は信用してしまっていたようだ。

 むろん、そのなかにも、金の催促をする者はいた。しかし血相を変えて返済を求めても、トミヨは一向に動じず、今度は銀行や役所も巻き込むのだ。

「うるさいねえ、200万円や300万円の金でゴタゴタ言うんじゃない。オレはいま、東京の銀行から5000万円ばかり、この岡山の銀行に預金を移そうと思っているんだよ。ちょっとお待ち、支店長を呼ぶから」

 本当に銀行に電話をかけ、支店長が飛んでくる。取り立てに来た者はバツが悪くなり引き返したという。また別の日には、複数人がトミヨのもとに金の取り立てに来たが、その目の前で県庁に電話をかけ“1億円の寄付”の相談をまとめるのだ。失いかけた信用は一挙に元に戻った。

つけびの村 噂が5人を殺したのか? / 高橋ユキ/著
犯罪なのに、どこか滑稽で味わい深い
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