高橋ユキ【悪女の履歴書】

「オレの正体をいま話して聞かせる」94歳オンナ詐欺師、最後の大ボラ! 商店街を主婦を巻き込む大脱走劇【岡山・高齢女性詐欺師:後編】

2021/01/30 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

「お前さんには、遺遺産の半分ぐらいあげようかと思ってんのさ」

「しまった、きょうは土曜日か。銀行は閉まっちゃったねえ。ちょいと、月曜まで1万円貸しとくれ。2万円にして返してやるよ」
「あら、1万円なんて言わないで、おばあちゃん。ここに5万円あるから、お使いなさいよ」
「そうかい。倍にして返してやるからね」

 月曜日が来ても、トミヨは金を借りたことを忘れているようだ。しかし貸した者が催促しようとすると、

「お前さんには、遺産の半分ぐらいあげようかと思ってんのさ。いつも親切にしてもらって、うれしくってねえ。それにひきかえ、あっちの女房、あいつは嫌だ。むりやり私に金や品物を押し付けて。あれは親切の押し売りだよ」

 立て板に水のごとく、スラスラとこんな話をするので、催促もできずじまい。そのほかにも、

「私はヒスイの鑑定士」
「金を引き出してくるから旅費を……」
「貸してくれれば5倍にして返す」
「土地を買ってやる」
「私の弟は、代議士の知り合い」

 など口から出まかせを言っては、5,000円から5万円を商店街の人々から借りまくった。貸した人間がさすがに気にし始める頃、滝本キヨ名義で、東京のデパートから座布団などのプレゼントが届けられるため、また黙ってしまうのだった。

つけびの村 噂が5人を殺したのか? / 高橋ユキ/著
犯罪なのに、どこか滑稽で味わい深い
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