産婦人科医・遠見才希子さんインタビュー

「緊急避妊薬の薬局販売」“否定派”の背景にあるもの―― 産婦人科医師の間でも意見が分かれる理由とは?

2020/12/16 19:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman
産婦人科医・遠見才希子さん

 10月8日、内閣府による会合で、緊急避妊薬を医師の処方箋なしで、薬局で販売可能とするよう検討されることが報じられた。それに対して、日本産婦人科医会の木下勝之会長は、性教育が不十分であることや女性の知識不足を指摘し、避妊に必要なのは本来1錠だが何錠も買う可能性があり得るとして、反対意見を表明。また、この問題をめぐっては、今年7月、同医会の前田津紀夫副会長が「安易な使用を心配」と発言し、物議を醸していた。

 こうした否定的な考え方は産婦人科医の間で広く共有されているのだろうか? 緊急避妊薬が薬局で購入可能となることを目指す「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」共同代表で産婦人科専門医の遠見才希子(えんみ・さきこ)さんに話を聞いた。

性の知識不足は女性だけの問題ではない

 まず、遠見さんは「女性の知識不足」を理由にすることについて疑問を呈する。

「性教育が十分に行われず、知識が不足してしまうのは、若い世代の責任ではなく大人世代の責任です。日本社会が長年、性のことをタブー視してきて、学校教育の中でも十分教えられる機会が担保されていない状況があるので、性の知識不足は年齢性別問わず言えるかもしれないことなんです」

 遠見さんは、医学生の頃から全国の中学・高校で講演を行うなど、性教育に取り組んできた。だからこそ、性教育だけを頼りに、望まない妊娠を防ごうとすることには矛盾が生じると指摘する。

「知識があっても受け皿が整っていないという事態も起こっています。私が性教育を行う中で出会った若い女性が、緊急避妊薬について知っていたけれど、価格が高く(約6,000円〜2万円程度)、産婦人科への受診のハードルが高かったため、手に入れられずに中絶することになったケースもあります。知識があっても、利用可能な制度がなければ、どうにもなりません。性教育と緊急避妊薬を確実に手に入れられる制度は、女性の体を守るための両輪なのです」

緊急避妊薬の繰り返し使用の背景にある問題

 また、緊急避妊薬が「安易」に使用されるという懸念についても異議を唱える。

「医療従事者は、目の前にいる人の、ほんの一部しか見られません。受診時の患者の態度から『安易に使用している』『知識がない』などのジャッジメントはできないはずです」

 地方の総合病院で働いていた時代に、緊急避妊薬を処方したこともあったが、「安易」とはかけ離れた状況だったそうだ。

「『よくぞたどり着いてくれました、手に入れにくいシステムでごめんなさい』という気持ちになりました。その患者さんは、3時間かけて病院まで来て、また3時間待って、ごく簡単な問診を受けて薬を受け取れることがわかった瞬間、安堵の表情になりました。情報の少ない中、必死に検索してたどり着いてくれたのだと思います」

 遠見さんは、緊急避妊薬を何度も使用するようなケースについては、安全性を強調したうえで、その背後にある問題や社会システムについて考えるべきだという。

「緊急避妊薬は、万が一のときに1回飲む薬ですが、繰り返し使用しても健康被害が出ないというエビデンスのある安全性の高い薬です。もし、女性が緊急避妊薬を繰り返し使うことになったとすれば、その背景にはいろんな状況が考えられますよね。性暴力の被害に繰り返し遭ったという人もいるかもしれないし、ほかの避妊方法にアクセスできなかったという理由も考えられます。低用量ピルなどほかの避妊方法を試したくても、日本の場合、高額で手に入りづらく、海外では利用可能な避妊注射や避妊インプラント、避妊パッチといった選択肢がありません」

 つまり、緊急避妊薬の繰り返し使用を女性の自己責任とせず、さまざまな避妊方法を安価に利用できるよう社会システムを変えたり、背景にある女性の貧困や虐待の問題を捉えて解決していく必要があるという。

 さらに、本来必要な量以上に買うのではないかという声に対しては、世界との意識のずれを指摘する。

「WHO(世界保健機関)は1回分だけでなく、事前に多めに受け取って、手元に持っておくことを推奨しています。なぜなら、性行為後、少しでも早く服用したほうが効果は高いからです」

 10月26日、遠見さんは木下会長と会談。受診という選択肢があっても、特に地方では、病院が遠いなどの理由から、すぐにたどり着けない女性もいることを伝えたという。

「緊急避妊薬の薬局販売と同時に、病院での診療体制の強化も要望しているのですが、長時間待たされた、内診をされたなど、受診時の対応で困ったことがあるという当事者の声をお伝えしたところ、『“処方にあたって内診は不要”“早く飲むことが効果的”など緊急避妊薬の適切な取り扱いについての周知を、今後、一緒に考えていきましょう』といった前向きな話もできました」

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