『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』元日本ボクシング連盟終身会長・山根明の今「たたかれても たたかれても… ~山根明と妻のその後~」

2020/11/09 18:09
石徹白未亜(ライター)

騒がれた人の「その後」と「その時の心境」

 山根夫妻を見たとき懐かしいと思ってしまったが、まだ2年前だったことに驚いた。自宅前で大勢のマスコミに囲まれていた山根夫妻を覚えている人も多いと思う。番組内では、智巳が撮影したという、大勢の取材陣が自宅に押し寄せる様子を、その輪の外から映した動画を放送していた。

 大きな機材を持ったカメラマンやマスコミのスタッフが山根の周りに50人くらいひしめき合っている様子は壮絶で、それはテレビで見ていた「山根氏直撃」の様子と大きく違って見えた。謝罪会見などでおかしな発言をしてしまい、火に油を注いでしまった人も多いが、あんなにカメラに囲まれ、さらに全員から追及されるような目線を向けられたら、なかなか「まとも」ではいられないだろう。

 山根夫妻は当時の出来事を夫婦漫才調にして店で話し、智巳のクラブの鉄板ネタにするなど、転んでもただでは起きない商魂たくましいところも見せるが、智巳は「私も逃げたかった」と当時の思いを話す。どちらも真実なのだろう。

男・山根を体現するファッション

 2年前の騒動の時も思ったが、山根はおしゃれだ。そして、そのおしゃれさは「TPOへの意識の高さ」ではないかと思う。山根は近所に買い物に出かけるときはシャツにスラックス姿で、その姿は「普通のおじいちゃん」という感じだったが、自分の誕生日のときはバシッとスーツにハットで決めているし、ボクシングジムに立ち寄ったときもスリーピースのスーツで、それはまさに「男・山根」だった。

 「屋内なら帽子をとるべきだ」「サングラスがヤクザすぎる」などはあるものの「ちゃんとした場所に行くときは、パリッとしたその場にふさわしい服装であるべきだ」という「ハレとケ」における「ハレ」の意識を感じさせる。そうした心意気は、世の80歳男性の中ではトップクラスであるように思うし、それどころか今の「スーツすら着なくなってきている」30~40代男性あたりに比べてもケタ違いで高い意識だと思う。

 カジュアルな服装は楽だし、安いし、扱いやすい。カジュアルな服装が幅を利かせる、というのは「名より実」「気取ったところでどうするの」という社会情勢を反映しているといえる。コロナがさらにそれに拍車をかけているだろう。

 しかし男・山根の気取ったファッションは、そんな「実」に流されがちなコロナ禍の時代に堂々と「名」の世界の美を体現していて、圧倒された。山根のファッショニスタぶりに感化されて、たまには気合を入れて服を着て、化粧をして、気取った場所に出かけてみようかという気になった。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「ザ・ノンフィクション 私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~ 前編」。心臓が肥大し、血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下してしまう原因不明の難病「拡張型心筋症」。悪化すれば心臓移植しか手段はないが、海外に比べ日本はドナーの数が海外に比べ少ない。心臓移植の待機患者とその家族の、生きることへの渇望と心の揺らぎを追った3年間の記録。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/11/09 18:09
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