『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』再犯率8割、50代以上の覚醒剤依存者の現実「母の涙と罪と罰 2020 前編 ~元ヤクザ マナブとタカシの5年~

2020/10/26 19:59
石徹白未亜(ライター)

フダ付きのワル、学が仏のような境地に至るまで

 この「マナブとタカシ」シリーズは2019年にも放送された。そのときにも思ったが、学の言動は仏のようだ。口調も穏やかで、そしてその穏やかさに「穏やかにあらねば」「穏やかでありたい」といった“無理”や“意識”を感じさせない。学の母、富子も信仰による学の変化に驚き、自身も教会に通って聖書を学び、番組内では富子が洗礼を受ける様子も伝えられていた。

 その聖書だけでなく、さまざまな言い伝えや民話などに「札付きのワルが、ある時を境に一気に改心」というエピソードは見る。しかし、おそらく学はそんなふうに突然改心したわけではなく、途方もないような一進一退を繰り返し、今の境地に至ったのではないかと思った。

 そう思うのも、学は覚醒剤にまた手を出してしまったタカシに対し「甘く考えないほうがいいよ。何とかなると思ってまた悪いことするんだから。誰だってやらないときってのは絶対あるんだから。まぁ一歩一歩だね」と話していたからだ。この言葉から、学自身、今度こそ何とかなると思った自分に裏切られ、失望し、それでも今度こそ更生しなくてはいけないと、一歩一歩の試行錯誤を重ねてきた日々があったのではないかと思う。

 個人的には、学が支援施設をクビになるまでに至った施設側との「対立」とは何だったのか気になる。辞めた側が一方的に話すのも、というためらいが学にあったのだろうが、だからこそ気になった。もしかしたら、その対立の理由は、他の多くの支援施設が抱える問題にもつながるかもしれない。

依存において、家族ではなく「他人」が支援する大切さ

 今回の番組を見て、あらためて、家族でなく「他人」が支援することの大切さを思う。学の母、富子は、かつて学が覚醒剤の利用で捕まった時の心境を「信用できねえ、2回も裏切られた」と話していた。家族にとってみたら、一度の裏切りならまだ信じてみようと思えても、二度目となると、いよいよ気持ちが折れてしまいかねないだろう。また、番組内では、学が支援施設で働いていたとき、施設を訪れたアルコール依存症患者が「お前のせいでこっちもつらいんだ」と家族から責められると話していた。

 そう責めてしまう家族の気持ちもわかる。一方で、そう責めることがかえって依存症患者を追い詰め、さらなる依存対象への耽溺につながりかねない。そもそも家族は「近すぎる」間柄だ。他人に言われたら素直に受け取れる言葉でも、家族に言われたら素直に受け取れなかったり、むしろ反発してしまう、ということもあるのではないだろうか。

 依存症患者のサポートにおいて大切なのは、家族だけでなんとかするのではなく、むしろ、家族以外の、他人の、そしてこういった支援に長けた専門家を頼ることではないだろうか。家族だけでなんとかしようとすれば、本人も家族も疲弊していってしまう。それは回復をますます遠ざけるように思う。

 なお、番組内では薬物依存の再犯率は中高年者ほど高いと伝えられており、50歳以上における覚せい剤の再犯者率は83.1%(19年、警察庁調べ)と伝えられていた。ちなみに、全世代で見ても、同年における覚醒剤の再犯率は66.3%と7割近い。つまり「半数以上は裏切る」のだ。この数字を踏まえて「信じる」というのはなかなかに困難だ。

『ザ・ノンフィクション』では学以外にも、元犯罪者を支援する人を多く取り上げているが、そういった人たちを周囲の人は「神様みたいな人」とよく話している。「相当信じにくい人を信じ、手を差し伸べることができる」というのは、確かに人知を超えた、神の領域に思える。

 次週は今回の後編。学は、支援している高野の様子がおかしいことに気づく。

※再犯率は以下を参考にしています。
公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/10/26 19:59
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