ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』言動の全てが“演技”がかった男「東京でビッグになりたい ~所持金10万円の上京ホームレス~」

2020/09/15 16:34
石徹白未亜(ライター)

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月13日は「東京でビッグになりたい ~所持金10万円の上京ホームレス~」というテーマで放送された。

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 今年2月に熊本から10万円を手に上京し、都内の公園でホームレス生活を送る22歳のサワガニケイタ。4月に番組スタッフが取材した際、「前澤さん(元ZOZO社長・前澤友作氏)を超えるような社長になりたいです」と豪語し、ソフトバンク孫正義社長にアポなし訪問しようとするなど、ビッグになろうと野心に燃えている男だ。SNSでは、そうした無鉄砲な日々を10万円の残金とともに記録している。なお、大学は中退し、パチンコでこしらえた借金が300万円あるという。

 名刺もないまま参加した名刺交換会で勧められたFX取引をスマホで始めたところ、元手の2万円は1週間で15万円近くまで上がる。その後資金は夏には700万円まで増え、かつて3日風呂に入れなかったケイタはブランドロゴや名称が露骨に出たヴェルサーチのネックレスやフェンディのシャツを買い、それまで汐留から六本木まで一時間かけ歩いていたのに、わずかな移動もタクシーを使うなど、わかりやすく成金ぶりを発揮する。

 8月、「一人の時間で何ができるかっていうのを故郷の方で考えようと思って」とはっきりしない理由で東京から去り地元に熊本に帰郷。現在は離婚した父親、母親の家をそれぞれ訪ね、FXで生計を立てている現状を伝える。全身ブランド品の一張羅で、2万円から700万円を稼いだ武勇伝を話すケイタに対し、母親は「怖いね」、妹は「非現実的すぎて何も思わんな 」、父親は「堅い会社に就職してくれればいいかなと思っていた。まあ俺の押し付けだったけどね」と全員いたって冷静な様子で、ひとまず帰郷したその日は穏やかに過ごしていた。

 9月、家族に報告ができてスッキリしたのか、ケイタは「熊本は居心地はいいけど自分を高めるなら東京かなって」とあっさり東京に戻り、「FX界でナンバーワンになる」「前澤さんとご飯を食べたいです」と相変わらずの調子で話す。

漫画の登場人物のような「演技がかった」言動

 ケイタは10万円を握りしめ、スーツケースひとつで上京したり、アポも取らずに孫社長に会いに行こうとしたり、社長に会えるかもしれないとの理由で高級ホテルのラウンジで張り込むなど、その行動はどれもドラマや漫画の登場人物のようだ。

 発言をみても、「親父の子どもでよかったと思ってる」という父親に向けての言葉や、SNSでの「人生が変わる瞬間ってこういうことか」という、おそらくFXで大勝したときの言葉も、どこか台詞のように聞こえた。

 ケイタは、おそらく演技がかった言動の持ち主なのだろう。そうした言動は、目の前にいる人を見ておらず、舞台の上から大勢に話しているようなわざとらしさを感じさせる。ケイタはSNSを活用していたが、そうした人にとって、SNSや動画などの不特定多数の人物に向けて発信できる場は、またとない舞台なのだろう。私自身にも、演技がかった部分があるため、ケイタを見ながら自分を棚に上げてイライラしたり、同族嫌悪も重なりげんなりしてしまった。

 番組を見る限り、ケイタ一家(両親と妹)には、そうした性質がないように見えた。母親は、ケイタを育てているときに育児ノイローゼ気味だったと明かし、「(ケイタへの)ギューが足りんかったかなぁって」と悔やんでいた。かつてケイタは母親に「ほかの子はみんな望まれて生まれているけど、俺だけ望まれていない子で適当に育てられているんじゃないか?」と言ったという。

 こうした言葉にも、どこか台詞めいたものを感じてしまう。もちろんケイタにとっては切実な感情の現れには違いないだろう。だが、言葉を額面通りに受け止めきれない気持ちにもなるのだ。そのすれ違いが、周囲とのコミュニケーションにもずれを生み、「生きづらさ」につながるようにも思える。

世界一騙されやすい日本人 演技性パーソナリティ時代の到来
ケイタのシリーズ化希望
アクセスランキング