オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンが語る「YouTuber・へずまりゅう窃盗事件」……スーパーのシャインマスカットを“勝手に食した”老婆の思い出

2020/09/12 16:00
澄江(保安員)
写真ACからの写真

 こんにちは、保安員の澄江です。今年の7月、YouTuberの「へずまりゅう」という方が、5月に愛知県内のスーパーマーケットで精算前の刺身を店内で食したという事実で逮捕されました。逮捕の容疑は、窃盗。その模様を映した配信動画を見れば、精算前の商品を店内で食した後に空のパックをレジに持参して、店員さんに「おなかが空いて食べちゃいました」と事情を説明したうえで精算を済ませており、その犯意が成立するのか疑問に思いました。この事実で窃盗が成立するのであれば、店内で刺身を食した場所からレジに至るまでの間に盗んだことになってしまいます。その間、隠匿行為もしておらず、店外に持ち出すことなく支払いを済ませていることから、既遂事実として認定できないと思うのです。近頃は、精算前の商品を店内で飲食する欧米系外国人も散見され、実際の業務研修においても、そうした場合は店を出るまで声をかけるなと教育されています。文化の違いによる区別で、犯罪格差が生じる可能性もあり、法の下の平等の原則を思えば、いくら迷惑行為とはいえ立件の判断は難しかったことでしょう。後に、新型コロナウイルスを撒き散らして関係各所に迷惑をかけたという被疑者ですが、それを罰する刑法も見当たらないので、今後の展開が気になるところです。今回は、私たちが店内で声をかける事案の一例について、お話したいと思います。

 当日の勤務は、東京都下のホームタウンに位置する食品専門スーパーE。土地柄なのか、買い物マナーの悪い人が目立つお店で、従前から捕捉の多いお店です。この日は、月に数回開催される朝市の日。開店と同時に勤務を開始してまもなく、どことなく自民党の二階俊博幹事長に似ている80歳前後と思しき老婆が目に止まりました。青果売場に設置されたポリ袋を複数枚手に取り、それをカゴの代わりにして、バラ売りのトマトを入れる姿が気になったのです。そのまま行動を見守っていると、朝市の混雑に紛れた老婆は、いくつかの品種が並ぶ葡萄コーナーでシャインマスカットを手にしました。居並ぶシャインマスカットのパックを、取ったり戻したりしながら、いくつかの実をむしり取っています。

(あんなにいろんなところから取られたら、どれが被害品かわからなくなっちゃうじゃない……)

 右手の中にため込んだシャインマスカットの実を、トマトとは別のポリ袋に入れた老婆は、次に巨峰の実もむしり始めました。あろうことか、その場で1粒食して、その皮をキャベツの外葉を入れるポリバケツに捨てる始末です。

 本来であれば、言い訳できぬよう店の外に出たところで声をかけたいところですが、むしり取った葡萄を食べられてしまえば、声をかけることすらできません。すでに高価な葡萄を複数損壊しており、その被害額は1万円に達する勢いです。おそらくは年金暮らしであろう老婆の弁償能力に、若干の不安を覚えますが、この厚かましい犯行を見過ごすわけにもいきません。

新品本/万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後 伊東ゆう/著
1粒でもむしられた葡萄は買えないわ……
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