2020年上半期、米国をエンタメから読む!【後編】

TikTok「ビルボードチャートの歴史を塗り替え」BLM運動「白人セレブや企業のスタンダード刷新」エンタメから米国の“変化”を見る! 【辰巳JUNK×渡辺志保:後編】

2020/09/05 13:30
堀川樹里(ライター)

白人セレブはBLM・コロナ禍で発信が難しい?

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――全米では新型コロナウイルスによって都市がロックダウンされ、雇用や経済などの格差がこれまで以上に可視化されました。さらには5月末に、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察官による過剰暴力で亡くなり、BLM運動がさらに高まりました。恵まれた環境にいるセレブが、一般市民にどれだけ寄り添えるかが問われていますね。

辰巳 コロナ禍において、世界中の人々を勇気づけるために、ガル・ガドット(映画『ワンダーウーマン』の主演女優)が、セレブ24人を集めてジョン・レノンの「イマジン」を合唱する動画をインスタグラムに投稿しました。昔だったら褒められていたかもしれませんが、「リッチなセレブたちに『パンデミックでも一緒』と言われても」という感じで大炎上しました。

渡辺 「そんな広い家に住んでいる人に、“家の中で自粛して”と言われても」と叩かれていましたね。逆にジェイ・Zやビヨンセ、リアーナはすぐに医療従事者やエッセンシャルワーカーの人たちに巨額の寄付をした。そういうアクションのほうが高く評価されましたよね。

辰巳 BLM関連では、白人セレブたちが「白人に責任がある」と声を上げた、人種差別撲滅運動「#ITakeResponsibility」キャンペーン動画にも、ソーシャルメディアは「そんなことしなくていいから」としらけムードだった。

渡辺 今回のBLMは、これまで以上に白人至上主義や白人特権を問題視しているわけで、そこを逆なでするような行為は、これまでのように「いいこと」とは受け止められなくなっている、という現実があるのかもしれません。

――それは黒人差別への意識が変わってきたことに加え、格差が簡単には解消されない社会になったことが関係しているのでしょうか?

渡辺 “アメリカの社会構造の中に、常に人種問題が組み込まれている”ことがより問題視されているのではないでしょうか。BLMというスローガン自体は、2012年に起きたトレイボン・マーティンの事件(※5)がきっかけで生まれた言葉ですが、白人に対する黒人たちの抗議や暴動はずっと前から、それこそ奴隷制の時代からありました。今回のBLM運動の高まりは、たまりにたまったフラストレーション、黒人たちの「オレたち、私たちはこんなに(抗議活動を)やってきたのに、まだここから議論せねばならないのか」といった、ある種の絶望感のようなものを感じます。マジョリティ側である白人たちも、自分たちの立場、自分たちの行為を見つめ直すフェーズに入っている。だからこそ、白人セレブリティが「どういう発言をするか」「どういうアクションをとるか」が、良くも悪くも注目されているのだと思います。

※5 フロリダ州のサンフォードで、17歳の高校生だったトレイボンさんが、地元の自警ボランティアでヒスパニック系のジョージ・ジマーマンに射殺された事件。ジョージが一方的にトレイボンさんを“不審者”と見なしてつきまとい、口論となった末に銃殺。裁判では、同州の「正当防衛法」に基づき、無罪となった。

辰巳 上層部が白人ばかりの大企業は、黒人の従業員に出世のチャンスを与えずに劣悪な環境で働かせていること、BLM支持を表明しても具体的には何もしてなかったことなど、いろいろな批判を浴びています。BLMの活動家たちが影響力のある人たちに問題を取り上げてほしいと呼びかけていた10年代前半と異なり、今は大企業や有名人のBLM支持が「普通のこと」になりました。だからこそ今回、白人セレブや大企業は、ただ賛同を示すだけでは評価されない状況に置かれたのかもしれない。

渡辺 より具体的な変化を求めるというか、寄付金の額や、企業従業員の人種的比率など、変化やサポートにおける意志をきちんと数値で表明する流れにはなっているのかもしれません。

――同時に、白人セレブの過去の黒人差別言動を問題視し、彼らのキャリアを潰すまで炎上させる「キャンセル・カルチャー」も指摘されていますが、それについてはどう思いますか?

辰巳 そうした炎上やバックラッシュ事象は一つ一つ異なるため、現段階では一概に言えず難しいです。たとえば、6月には大御所白人コメディアンのジミー・キンメルの過去のブラックフェイス(黒人のマネをするために、顔を黒く塗る行為)が騒動になりましたが、このケースの場合、一時的な仕事のキャンセルはあったとしても、問題視される言動が新たに浮上しない限り、キャリアや看板番組がダメになるような長期的打撃にはならないと思います。

渡辺 過去を遡って、何をどこまで批判するのか線引きするのは、本当に難しいですよね。ただ、昔はOKだったものが今ではNGとされていることを踏まえて、自分から真摯に謝罪する姿勢が求められている。前述した「アーバン」の問題もそうですが、企業もひっくるめて、今の時代に合ったスタンダードへとどんどん刷新していく姿勢になっていくのかなと感じます。

辰巳 『風と共に去りぬ』など(※6)、BLMプロテスター側から問題視されたコンテンツを削除や謝罪、修正するといった企業群の素早い対応については、ビジネスとしても、今の時点で軌道修正したほうがよいという判断があるのだと思います。アメリカの多くの主要エンターテインメント企業がターゲットにしたい「都市部の若年層」はマイノリティ人種の比率が増えているし、今回のBLM運動の参加者には若い白人や富裕層も多いとされるので。

※6 白人が黒人奴隷を所有していた南北戦争前、そして戦争後が舞台となっている作品で、登場する黒人奴隷たちが「白人の主人に尽くすことに幸せと喜びを感じているように描かれている」として、上映当時も黒人層から批判を浴びていた。今回のBLM運動や黒人脚本家からの指摘を受け、米動画ストリーミングサービス「HBO MAX」は同作の配信を一時停止。2週間後、映画の冒頭に同作に対する批判と歴史的背景を説明する2つの動画を追加し、配信を再開した。

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