性犯罪とDV「再犯」を防ぐには【4回】

「男性は性欲を制御できない」という認識が、あらゆる問題を煙に巻く――性教育、AV、戦隊モノが生む古い価値観

2020/09/13 21:30
有山千春

「性犯罪は性欲の問題」という“間違った認識”は、なぜ正されないのか?

斉藤章佳氏

――お二人のお話を聞いていると、DVや性犯罪は「これをやればゼロになる」といった簡単な話ではないような気がします。もっと社会の根深いところに、問題があるというか。

斉藤 性犯罪はどうしても「性欲」の強さの問題に矮小化されがちですよね。だからSNSなどで「去勢しろ!」という意見が出るのでしょう。しかし、痴漢加害者200人に「痴漢行為時に勃起や射精を伴ったか」というヒアリングを行った当院の調査研究では、半数以上から「NO」という回答を得ています。

 私自身も加害者臨床に携わる前は、「性犯罪は性欲の強い人がやるんだろう」と思っていました。でも、現場で加害者たちに話を聞くようになると、「僕は性欲が強いからやったんです」という話はほとんど聞かなかった。4年制大学を卒業して、企業に勤めて、妻子がいて……という、我々とあまり変わらない人たちばかりなんですよ。では、なぜ痴漢を繰り返すのか? そう彼らに聞くと、支配欲や達成感、弱いものいじめの優越感、釣りに似たレジャー感覚、男性性の確認などが浮かび上がってきたのです。性暴力は、こうした複合的な“快楽”が凝縮した行為だからこそ、なかなかやめられないのだと確信しました。

栗原 私のプログラムに来た男性も、同じようなことを話していましたね。彼は電車の中で男性器を露出させたことがあると言い、その背景には、幼少期にネグレクト状態に置かれたことがあったと告白したんです。「自分の存在に気づいてほしい」という承認欲求が下地にあって、性欲が理由ではないんです。

――それなのにどうして、「性犯罪は性欲の問題」という認識が広がってしまうのでしょうか?

斉藤 性犯罪加害者に警察での取り調べについて聞くと、大抵計画的で「性欲の強さの問題」だというストーリーに誘導されているといいます。裁判でもよく、被告人側の証人として登場する妻に、検察官が「夫婦生活はどうでしたか?」と聞くシーンがあります。この質問の意図は「セックスレスが原因で事件を起こした」「妻が夫の性欲のケアをきちんとしていなかったから事件が起きた」という性欲原因論のバイアスがかかったものであると考えられます。法廷ではいまだに「性欲が背景にあり、それが抑制できず性犯罪が起きている」という認識が根強くあるため、裁判長の最後の訓示でも、「被告人は抑えきれない性欲が暴走し……」といったフレーズが使われることが度々あります。

 そういったことを含めて、世間には「男性は自分の性欲をコントロールできない」という価値観がありませんか? でも、友人の前でいきなりマスターベーションをしたり、交番の前で痴漢をする男性はいないですよね? なぜならば、「性欲をコントロールできている」からです。なのになぜ、男性は自分たちで「男は性欲をコントロールできない生き物だから」ということを否定しないのでしょうか? よく考えると、侮辱的な価値観ですよね。ということはつまり、この考え方で男性側が都合よく隠蔽できる事実があるからです。

 それなら一層、「性欲をなくせばOK」「去勢すれば再犯しない」ではないんです。これでは何も解決にならないことを、まずは知ってほしい。目の前にいる加害者は、日本社会の縮図です。社会に根強くある男尊女卑的な価値観を変えていく必要があります。そのうえで、無数にいる被害者と、その加害者がどう向き合っていくかが、とても大事なんです。

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