性犯罪とDV「再犯」を防ぐには【2回】

「女性は痴漢で気持ち良くなる」と信じていた――性犯罪加害者の言葉から、“治療”の在り方を問う

2020/09/11 21:30
三浦ゆえ

痴漢の欲求をなくすには「人間関係を変えるしかない」

 性犯罪の再犯リスクは、孤立やそれによるフラストレーションによって高まることがわかっている。Oさんは2回目の通院で、やっと孤立状態を回避できた。変化は、ほかにもあったという。

「クリニックに通い始めたばかりのとき、主治医から『女性が痴漢されたがっているとか、触られて気持ちよくなるとかは、ファンタジーでしかない』といった話をたくさんされました。表向きはうなずいて聞いていましたが、それを認めることは、自分が今まで“現実”だと思い込んできたことへの否認になるので、なかなか受け入れることができなかった。でも、自分が痴漢をしたと開示して以来、性犯罪について議論する学会や、トークイベントに足を運ぶようになりました。そこでは、『女性は痴漢被害で苦しんでいる』という前提で話がされていて、それを聞いてやっと少しずつ理解ができるようになったんです」

 Oさんの人生において、痴漢をしない日々よりも、痴漢をしていた日々のほうがまだ長い。それでも、今日「痴漢しなかった日」を送り、明日も、明後日もそうしていくしか、痴漢をやめる道はない。

 最後にOさんへ、刑務所内で受刑者に実施されている「性犯罪再犯防止指導(R3)」について聞いてみた。刑期が短いなどの理由で、彼は一度もその対象となっていないが、指導を受けたい気持ちはあったのだろうか。

「私が思う再犯防止とは、『痴漢をしたい』という気持ちにならないようにすること。R3で行われているのは、自分が加害行動をしたくなる動機を洗い出して、それが発生しない環境を自分で作ったり、発生しても制御できるようにしていく“認知行動療法”だと聞いています。それはそれで必要だと思いますが、根本的に『痴漢したい』という欲求をなくすには、人間関係を変えていくしかない、というのが私の実感です。そしてそれは、刑務所の中ではできないことだと思います」

 現在Oさんは、痴漢の“加害”に悩む人を対象に、「再犯防止」を支援する側に回っている。

「自身が30年間にわたって痴漢加害をしてきて、再犯防止に関する成功や失敗の体験をもとに、加害行為がやめられずに困っている当事者、または家族や支援者への『再犯防止』に関するサポートを行っています。主なサポートは男性限定のミーティング開催で、痴漢に限らず、一般的な性の話題も含めて、異性に言いにくい話も打ち明けられる場をつくっています。2~3人の少人数で行っていますので、このようなミーティングが初めての方も、安心してご参加ください」

男性および男性の性自認の方限定ミーティング「ダンクロ」

 第3回、第4回では、性犯罪加害者の更生・治療に取り組む精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と、DV加害者更生プログラムや被害者支援を行う「NPO法人女性・人権支援センター ステップ」の代表である栗原加代美氏に、心理的なアプローチから再犯を防ぐ「加害者臨床」の意義を聞いた。
(三浦ゆえ)

最終更新:2020/09/11 21:30
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